06年にはふたたび酒税が改正され、今度は新ジャンルの税額が上がる。メーカーの企業努力を否定するかのような狙い撃ちの増税だ。しかし、新ジャンルの勢いは衰えなかった。07年以降、サントリー「金麦」、アサヒ「クリアアサヒ」、サッポロ「麦とホップ」に代表される、発泡酒と麦系スピリッツを混ぜてつくる新ジャンルが登場したからだ。アサヒビールの古澤毅ビールマーケティング部部長は次のように解説する。

撮影=プレジデントオンライン編集部
アサヒビール ビールマーケティング部部長の古澤毅氏

「ビールじゃなくてもおいしいから飲みたい」

「新ジャンルを購入するお客様にアンケートをとると、かつては100人中100人が『本当はビールを飲みたいが、安いから飲んでいる』とお答えでした。しかし、原材料にこれまでの豆から麦芽を使用するようになったことでよりビールらしいおいしさに近づき、お客様の評価が変わりました。今では、『リーズナブルだから』は6割程度。残りの4割のお客様は、飲みやすさや味、糖質オフなどの機能性といった理由で積極的に新ジャンルを選んでいます」

新ジャンルの勢いは数字でも裏付けられている。麦芽を原料とした新ジャンルが登場する前の2006年、課税数量に占める割合はビールが55.6%、発泡酒が25.1%、新ジャンルは19.3%だった。しかし、19年にはビール47.5%、発泡酒12.2%、新ジャンル40.3%と様変わりした。低迷が続くビール、風前の灯の発泡酒、たくましく成長を続ける新ジャンル――。これが酒税改正前の勢力図だった。

「家飲み贅沢派」が増え、缶ビールが好調

サッポロ生ビール 黒ラベル(提供=サッポロビール)

酒税改正で値上がりする新ジャンルは、改正前の駆け込み需要が期待できる。メーカーとしても売り時だったが、その前に想定外の事態が起きた。新型コロナウイルスの感染拡大だ。コロナ禍は、ビール類の売れ行きにどのような影響を与えたのだろうか。

まず注目したいのは、新ジャンルからビールへのシフトだ。サッポロの場合は外食しづらくなった影響で、スーパーでお寿司を買ったりデリバリーで食事を頼んだりするなど家庭でリッチな食事をするケースが増え、それに伴って家庭ではプレミアムなビールが売れた。

「『黒ラベル』は5年前から成長フェーズに入っていたが、コロナ禍でも好調が続いている。お父さんたちが居酒屋に行けなくなったが、外で飲んでいるブランドを家でも飲みたいと、自分で仕事帰りに買って帰っているのではないか」(サッポロ・野瀬氏)