事実を「盛った」ら違法になる場合も
法律家がこのような相談を受けると、被害者のBの、「名誉権」や「プライバシー」といった権利の侵害の問題であると整理します。つまり、全ての人は、自分の名誉や、私的なことを第三者に知られないことについて権利等を持っていて、それが害された場合、損害賠償や投稿の削除等を求めることができます。
「加害者」となったAにも「表現の自由」という権利がありますが、事実を「盛って」投稿した場合、違法な投稿になりやすくなります。ここで、「盛って」というのは、真実が「60」しかない場合に、「40」を追加して「100」として投稿してしまうことです。
例えば、事例では「Bの店はおいしくなく、その旨を述べたら二度と来るなと言われた」というのが真実です。この旨を投稿しただけなら表現の自由の範囲内とみなされる可能性があります。しかし、「ゴキブリが出た」という部分は、事実ではないので、そのようなものを追加したAの投稿は、表現の自由を超えたとみなされる可能性が高いといえます。
「共有」「拡散」だけで責任を負うとした事例も
例えば、今年5月に亡くなったプロレスラーの木村花さん(22)は、フジテレビの番組「テラスハウス」に出演し、番組内での行動を巡ってSNS上で誹謗中傷を受けていました。このような事案を念頭に、以下の仮想事例を考えてみたいと思います。
仮想事例2:Xさんは、リアリティーショーで、悪役キャラを演じるYさんが憎らしいと思っていたが、SNSで、たまたま、Zさんが、Yさんを非難する投稿が目に入り、自分の思っていたことをうまく言ってくれたと、その投稿を共有・拡散した。
Xさんとしては、「自分が投稿したわけではないのに」と思うところでしょうが、これは2020年6月23日の大阪高裁判決がもとになっています。大阪高裁は、違法な投稿をリツイートしたジャーナリストの責任を認め、違法な投稿のリツイートは原則として違法だ、という判断を示しています。
リツイートについてはまだ最高裁の判断は出ておらず、高裁や地裁の判断は分かれていますので、リツイートをしても責任を問われない可能性があります。とはいえ、紛争の「予防」という意味では、拡散のボタンを「ポチ」と押すということで、元投稿をすることと同じ責任を負い得るのだ、という意識で対応すべきです。
なお、2020年10月28日現在、ツイッターでは、コメントを付ける「引用リツイート」が標準になっています。「このような投稿には賛同できない」とコメントしてリツイートすることもできる以上、コメントせずにリツイートしたのであれば賛同の趣旨がある、という主張の説得性は相対的に上がっています。