暖房がついていなくても、室温18度近くになる一戸建て

そして私も梼原町で、室内の暖かさと深い睡眠を実感しました。梼原町には国土交通省から支援を受け、伊香賀俊治教授監修のもとに健康と環境を考えて建設された体験型モデル住宅が2棟あります。断熱性に優れ、家の中のほとんどが17度以上に保たれているという一戸建てのモデル住宅に宿泊すると、東京都内の自宅マンションとは全く違う安らぎ感がありました。

11月のある日の21時すぎ、梼原町の外気温は7.5度で、手がかじかむほどでした。でもモデル住宅に一歩足を踏み入れると、ふわっと木の香りが漂い、暖かい空気に包まれるのです。暖房はついていませんでしたが、室温計は18度近くを示していました。家の中のすべてが均一の温度空間を体感すると、普段の自分が無意識に廊下、トイレ、風呂などで「寒いはず」と身構えているのがわかります。初めて訪れる家なのに心身が緩む、不思議な感覚でした。

そして普段の私は眠りについてから3、4時間すると目が覚めてしまい、トイレに行くことが多いのですが、このモデル住宅では朝まで一度も起きることがなかったのです。

寒い家は暖かい家の1.6倍、頻尿になる

暑いと眠れないのは何となく理解できますが、寒い環境でも眠りが浅くなるのはなぜでしょうか。

伊香賀俊治教授は「布団の中が暖かくても、頭や肩は露出していますし、吸い込む空気も冷たい。体が冷えてしまい、尿意を催すのではないか」と指摘します。就寝前の居間の室温が18度の群を1とすると、12度未満の家では1.6倍、過活動膀胱(頻尿)の症状が多く出ていることも、それを裏付けます(国土交通省スマートウェルネス住宅等推進事業調査成果、泌尿器国際医学誌「Urology」2020年8月号掲載)。

また暖かい環境で眠ると、厚く重たい布団を使わなくてもいいのです。大崎さんも新築宅では冬場に軽い布団1枚で済むようになったと言いますが、私もモデル住宅で薄手の掛布団1枚のみの使用でした。日本エネルギーパス協会代表理事の今泉太爾氏によると「本来はお気に入りの掛布団1枚で眠れるくらいの室温がいい」そうです。

「一般的に掛布団は2キロ以下の重さにすると、スムーズに寝返りが打てるようです。室温が寒すぎると、掛布団+毛布など複数の寝具によってかなり重たくなってしまいます。掛布団を2キロ以内、お気に入りの掛布団1枚で済ますには、個人差があるものの、だいたい15度~18度以上の室温だと可能になるようです。そのあたりを目安に、自分が快適に眠れる室温を探すことが、質のいい睡眠をとるための第一歩です」

笹井恵里子『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)

翌朝の起床もスムーズでした。寒い時期に温かい布団から気合いを入れて起きた経験は誰でもあるでしょう。それがモデル住宅ではすっと布団から出られるのです。

室内は朝でも空気が冷えきっていません。前夜に1時間ほどペレットストーブ(※おが屑を高温で固めた「ペレット」を燃やして、室内の空気は汚さず暖をとる方法。間伐時に生じるクズを原料としているため、地域の森林資源の循環を目指す、環境に配慮した暖房機器として知られる)を焚いていたのですが、その温かさがほんわか残ったマイルドな空気なのです。

一歩外に出れば、外気温は8度で、頬に冷気が突き刺さるようなのですが、住居が厚いバリアで覆われているような、外と中との境界線がしっかりしています。それがつまりは断熱性の優れている住宅ということです。

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