一般人による「家庭内演技動画」が流行
それでもロックダウン中、メンタル面の問題はあったようです。毎日あらゆる人々とコミュニケーションをとるのが大好きな国民ですから、直に話せるのは身近な家族だけ、という限定的な人間関係に耐えられず、鬱症状や精神的なパニックを起こした人が増えたらしい。一方で動画サイトやSNSなどでは、彼らが自宅隔離をどんなふうに過ごしているか垣間見られるものも、多数投稿されていました。
たとえば「もう我慢できない! カフェを飲みにバールに行く!」とジャケットを着込んで出ていく熟年男性の動画。玄関を出て本当にバールに向かったのかと思えば、そのままキッチンの窓の外に立ち、そこから「マスター、エスプレッソを1杯」と注文を投げた相手は自分の妻。
妻もそれを受けて「いらっしゃい。はい、どうぞ」と出窓の床板をバールのカウンターに見立て、バリスタになり切って淹れたてのコーヒーを出していました。「1ユーロだったかな?」「ええ。また来てね」と、男性がカップをぐいっと飲み干したあとも会話のやりとりが続きます。そして、背景には動画を撮っている娘さんらしき笑い声が……。
一時期、こうした一般の人による家庭内演技動画がたくさんアップされていました(笑)。家族揃って、大の大人が小芝居を楽しんでいて、視聴者をも楽しませている。受け入れ難い日常の異変のなかでも、こんなふうに乗り切ることができるなんて、彼らのエネルギッシュな想像力と行動力には憧れすら覚えます。
コロナ禍の人々に響いた「誰も寝てはならぬ」
思わず心を動かされ、涙がにじんだ映像もありました。フィレンツェ5月音楽祭劇場が配信していた少年少女の合唱です。プッチーニのオペラ『トゥーランドット』のアリア「誰も寝てはならぬ」を、ビデオ通話を利用してリモートで合唱していたのです。
イタリア人なら誰でも知っているだろうこの曲は、最後に「夜明けとともに、私は勝つ!」という歌詞で盛り上がるのですが、清らかな声の癒やしとともに、コロナ禍にいる人々に響いたと思います。ほかの団体の企画にも、イタリアをはじめとするヨーロッパの子どもたち700人がこの曲をリモートで合唱している動画がありました。