すべては三ツ星を獲るためだった

キッチンのピリピリ感はホールのスタッフにも伝わりました。ホールのスタッフも僕の顔色を窺い、お客様のグラスにワインや水がなくなっていても、自分で注ぎ足そうとせずに僕の指示を待つようになったのです。

仕方ないから、「あそこのお客様、キョロキョロしてワインを飲みたがってるじゃん、オーダー聞きに行きなよ」と指示を出す。そうやって口を出すと、ますます僕の指示を待つようになる。その悪循環で、スタッフの数は多くても、みんな直立不動で立っているだけ、という状況になりました。

当然、お客様の満足度は下がり、いろんなところでクレームがありました。それでスタッフを怒ると、さらにみんな委縮するという、超速で悪循環を繰り返しました。

僕は三ツ星を獲るためにはそこまでしなきゃいけないんだと、信じきっていたんです。昔からいた料理長の渡邊が見るに見かねて、「そんなやり方じゃ皆辞めちゃいますよ」と言ってくれていたけど、僕は聞く耳を持ちませんでした。

僕は一流の人を完コピしてきたので、スタッフもきっと僕のことをコピーしてくれるに違いないと思っていました。でも、そうじゃなかった。

僕がそれに気づいたのはレストランをオープンしてずいぶん経ってからです。

「オレのやり方、間違ってたんじゃね?」

こうやって改めて文章にしてみると、僕は「完コピハラスメント」をしていた迷惑経営者だったな、とつくづく思います。

スタッフはあっという間に辞めていき、ホールもキッチンもどんどん人が入れ替わりました。新しい人を雇うたびにゼロから教え直しても、すぐにまた去っていく。朝お店に来たら、ドアに辞表が挟まっていて、ドアノブに店のカギと保険証が入った袋がかけてあったこともありました。

そんなことが続いて、お店の売上もだんだん下がっていったので、僕はある日立ち止まりました。

「もしかして、オレのやり方、間違ってたんじゃね?」と、目が覚めたのです。