【佐々木】能仲テクニカルコーチには、選手と積極的にコミュニケーションを取ってもらっていました。私と直接話すのに遠慮がある選手もいますから、そういう選手は能仲コーチを通してコミュニケーションを図ったほうが、意見がストレートに出るんです。
【藤原】佐々木監督は非常にフランクなイメージがありますから、監督と話すのに遠慮する選手がいるというのは意外です。
【佐々木】澤みたいな中堅以上の選手は、私とフランクに話しますけれども、やはり若手の選手は遠慮があるようです。ですから、そういった選手には、私よりも年齢の近いコーチに、本音を聞いてもらったりするわけです。
【藤原】企業でいうと監督が部長だとすると、澤さんくらいの中堅のポジションであれば、ダイレクトに話もできますけれども、若手社員は、そうはいかないのと同じですね。
監督は「勝った試合は選手の手柄、負けた試合は自分の責任」というドクトリンを明確に持っていらっしゃいますね。企業の経営者もすべからく留意すべき考え方だと思いますが、これはお父様の影響でしょうか。
【佐々木】父は土木建築業を営んでいたのですが、社員が仕事でミスをしたりプライベートで揉めたときは、体を張って社員をかばっていました。そうした父の背中から「肩書は部下を守るためにある」ということを学びました。私も体を張ってなでしこジャパンを守っている、という自負はありますね。
【藤原】ミーティングで遅れた選手にも独特の注意をするとか。遅れた選手を怒るのではなく周囲の選手に語りかける。「自分は集合の声に気がついたのに、なんであいつに教えてやらないんだ」と。こうした間接話法での注意は有効なんでしょうか?
【佐々木】そうした手法は必要です。練習で同じミスばかりしている選手がいても直接本人に厳しく注意するのではなく、周囲の選手に「こいつがもっとよくプレーするためにサポートするのが当たり前だぞ」と語りかけます。
叱り方は難しい。ミスした本人を怒ればいいというものでもない。その選手のチーム内での立ち位置などを考えながら、言葉を選んでいます。ミスを連発したからといって、若い選手にあまり厳しく言っても空気が悪くなるだけ。逆に、軸になる選手がミスしたときは敢えて厳しく言うこともあります。例えば、澤が厳しく注意されれば、周りの選手も、私たちももっとやらなきゃ、となりますからね。