星野監督の恩情が裏目に出てしまった
翌日の米国との3位決定戦の日。朝食会場の壁に貼られたスターティングメンバーを見て、佐藤は仰天した。そこに自分の名前があったからだ。
「レフトはお前で行くぞ」
星野にも打撃コーチの田淵幸一にも声をかけられた。佐藤の喉からは「嘘でしょう」という言葉が出かかった。
星野は「佐藤の野球人生をダメにしたくないからチャンスを与えたい」とコーチ陣に洩らしていた。だがこの状況では、星野の恩情は佐藤にとって逆に作用した。
「ふつうならチャンスをもらって意気に感じる場面なのでしょうが、僕には『やばい』という気持ちしかありませんでした。なぜ僕を先発で使うのか、と。気持ちがへこんでいたので試合に出る自信がなかったんです」
佐藤は、昨日は弱気になっていたので、今日は守備でももっと積極的にいかなければならないと肝に銘じた。
試合が始まった。日本代表の先発は左腕の和田毅(ソフトバンクホークス)。日本は3回表を終わって、4対1と試合を優位に進めていた。
任せるべき打球を深追いしてまたも落球
3回裏、米国の先頭打者1番バーデンの打球は、和田の球威に押され、ショート中島裕之(埼玉西武ライオンズ)の後方に上がった。中島が捕球体勢に入ろうとしたが、そこへ佐藤が声を上げて勢いよく前進してきた。中島は急いで二塁方向によけ、佐藤に任せた。
佐藤は逆シングルで捕球しようとしたが、ボールをグラブの先に当てて落としてしまう。またもや騒然となる球場。落ちたボールはレフトフィールドを転がる。
「強気にいこうという気持ちが空回りして、本来中島に任せるべき打球を無理に捕りにいきました。積極性が裏目に出てしまいました」
バーデンは一気に二塁へ進んだ。和田は次打者を歩かせ無死一、二塁に。一死後センター左へ3ランを打たれ、4対4の同点となった。
5回裏に和田をリリーフした川上憲伸(中日ドラゴンズ)も打たれ、ついに逆転され、その後4対8と突き放された。
日本は挽回できず、米国に敗れ、銅メダルも逃した。
試合後、星野は「すべては自分の責任」と報道陣に語った。