付和雷同も人をバカにする

さらに、社会心理学における〈社会的影響〉〔他人に同調したりされたりすることで働く集団力学〕に関する研究によると、こういうことも起こりうる。「誤って行き止まりの道を進んでしまった車の後を、のこのこついてくるバカな車があるけど、あれって何なの!?」「クイズ番組の『地球のまわりを回ってるのは月と太陽のどっち?』みたいな超簡単な問題で、客席投票を選択するバカな解答者がいるけど、あれって何なの!?」

時に人間は、合理性や真理から遠ざかってしまうことがある。結局のところ、究極のバカとは、研究結果の平均からもっとも遠いところにいる人間なのだ。一般的に、バカはものの見方が単純だ。だから、桁の大きな数字、平方根、複雑な現象を苦手とする。ガウス曲線の両端(編集部注:正規分布を示す釣鐘型の曲線の両端、つまり平均を大きく外れた極端な例外)しか理解できない。スターリンもこう述べている。「数千人の兵士の死は統計で、ひとりの兵士の死は悲劇だ」

確かに、どんな人でも、数字の羅列にすぎない研究結果より、エピソードのほうにより心を動かされるだろう。だが、バカはエピソードに必要以上にのめりこむ。そして、「ビルの40階から落ちたのに死ななかった人を知ってるわ!」と言って興奮するのだ。ただしこれは、民間テレビ局2社で報道されていたニュースで、本人の知り合いでも何でもないのだが。

あなたの仕事についてあなたに説明しようとするバカ

アメリカの社会心理学者、デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーに、「能力が低い人はそのことに気づかない」というタイトルの研究論文がある。わたしはこれは「あなたの仕事についてあなたに説明しようとするバカに関する研究」とすべきだったと思う。そうしなかったのは、おそらくそんな変なタイトルでは科学専門誌に掲載してもらえないと思ったのだろう。

だが、ふたりの研究内容はまさにこのとおりだ。能力が低い人ほど自分を過大評価し、他人に平気でその価値観を押しつける。だからこそ、バカは一度も犬を飼ったことがないくせに、犬を飼っている人にしつけのしかたをアドバイスしようとするのだ。

この〈優劣の錯覚〉という認知バイアスは、ある一定の状況において、自らの真の能力を認識できなくなる現象を指す。それだけではない。ダニングとクルーガーによると、能力が低い人は自分を過大評価するだけでなく、能力が高い他人を過小評価する傾向もあるという。