米国経済に対する失望もユーロの上昇を促す
一方、ユーロ高の裏にはドル安があるわけだが、それを促しているのは米国経済に対する失望だ。米国の新型コロナ感染者数は460万人を超えるなど世界でも突出しており、感染拡大に歯止めがかからない。厳格な都市封鎖(ロックダウン)を実施したニューヨークでは収束しつつあるが、一方で経済活動を本格的に再開させるまでには至っておらず、米国の景気回復が遅れるとの観測が高まっている。
今年11月の大統領選で再選を目指すトランプ大統領は、経済活動への配慮からこれまで強い感染対策を採用してこなかった。そうした感染対策のあり方に加えて、これまでの政権運営に対する不信感などから、トランプ大統領に対する支持率はこのところ各種の世論調査で低迷しており、野党・民主党の候補者であるジョー・バイデン前副大統領にリードを許している状態にある。
支持率の回復に躍起なトランプ大統領は、7月22日の在ヒューストン中国総領事館の閉鎖命令を皮切りに、中国に対する圧力を矢継ぎ早に強めている。中国企業が運営するショートビデオアプリ「TikTok」を米国で禁止する方針を示したことも、この延長線にある。当然、中国も成都にある米国総領事館の閉鎖命令を出すなど対抗措置を強めており、米中摩擦が再燃している。
コロナ禍も対中摩擦も米国景気の回復の遅れにつながり、FRB(連邦準備制度理事会)による大規模な金融緩和も長期化を余儀なくされる公算が大きい。こうした米国経済に対する投資家の悲観的な見方が、ユーロ買いにつながっている側面も無視できない。円の対ドルレートがこのところ円高気味に推移していることも、米国経済に対する投資家の悲観的な見方を反映している。
バイデン前副大統領の当選でも「ドル高」にはならない
ユーロは実に政治的な要因によって左右される通貨だ。どの通貨も政治の安定は経済の成長につながるが、27カ国から構成されるEUの通貨であるユーロの場合、政治的な要因が為替レートにとくに反映されやすい。2017年5月にフランスで親EU派のエマニュエル・マクロン大統領が当選した際にユーロ相場が急上昇したことなどは、そうしたユーロの持つ性質を良く表している。
EUでは2021年3月17日にオランダが総選挙を控えている。多党制の国であるオランダでは近年、反EU色が強い自由党(PVV)が台頭、連立政権を組む上でのハードルとなっている。オランダのマルク・ルッテ首相が復興基金のあり方に対してドイツやフランスに対して厳しい態度を貫いた背景には、こうしたオランダが抱える事情もある。とはいえ、言い換えればオランダ以外に目ぼしい国政選挙はない。
こうした意味で、来年にかけてEUの政治は安定しているといっていい。他方で米国は今年11月に大統領選を控えており、トランプ再選に黄色信号が灯っている。トランプ大統領が再選した場合、少なくとも中国に対する圧力は短期的には緩和され、それがドル買い要因になる可能性が高い。とはいえトランプ大統領の政権運営は場当たり的な側面が強く、それが持続的なドル高を阻むだろう。
それにバイデン前副大統領が当選したとしても、持続的なドル高が進むとは考えにくい。むしろ、規制強化を重視する民主党政権の下で、米国景気の回復がかえって遅れてしまうリスクが意識される。実際にそうした方針が打ち出されれば、ドル安はさらに進むことになるだろう。バイデン前副大統領が77歳とトランプ大統領以上に高齢であるため2期目が望めないことも、政治的な安定の面からは問題といえる。