WTOに則った貿易が英国とEUに与える問題点

新型コロナウイルスの感染拡大が徐々に収束するにつれ、コロナ以前からのトピックが色々と息を吹き返している。米中摩擦や北朝鮮情勢、中東の地政学といった諸問題がそれにあたるが、そのうちの1つに英国と欧州連合(EU)の通商交渉がある。今年1月末でEUから離脱した英国は、新たにEUとの間で通商協定を締結する必要がある。

英国ロンドン=2020年6月15日
写真=Avalon/時事通信フォト
英国ロンドン=2020年6月15日

英国は今年いっぱい、EU離脱に伴う通商環境の激変緩和措置として、EUの関税同盟にとどまることが許されている。いわゆる「移行期間」であるが、この期間を過ぎると英国はEUの関税同盟から離脱し、世界貿易機関(WTO)が定めたルールに則った貿易取引をEUとの間で行う必要に迫られる。それでは、一体それの何が問題なのだろうか。

ラフに言えば、WTOルールに則った貿易を行う場合、英国とEUの間で関税が復活することになる。そして関税が復活することで、輸入品の価格は上昇する。加えて、税関審査のプロセスが必要となるため、流通や行政のコストが増えることになる。要するに輸入するモノの価格が上昇し、購買力が低下するという問題が発生するわけだ。

この問題に伴う経済への悪影響は、英国の方がEUよりもはるかに深刻だ。英国の貿易は輸出と輸入の両面で、大半がEU向けとなっている。当然、EU向けの貿易は輸出よりも輸入が多く、英国の経済活動はEUからの輸入によって成り立っている。そのコストが増える事態を回避すべく、英国はEUとの間で新たな通商協定を結ぶ必要があるわけだ。