当社は製造から販売の「食」のプロセスをサプライチェーンマネジメント(SCM)として捉えている。そこで2008年には原材料を調達するため北海道とエジプト、カンボジアに農地を確保し、農業事業に着手した。特にエジプトでは3000ヘクタールという広大な土地でほうれん草やブロッコリーを栽培し、初年度に11億円相当の農産物を収穫する計画だ。

グラフを拡大
5人に1人は年収200万以下!

同地域に農地を求めたのは、気候上、病虫害が発生しにくく低農薬栽培が可能であることや、中国に代わる産地を求めたという理由もあるが、関税や物流上のメリットも考慮に入れてのことだ。

例えばカンボジアは原産品の無税通関が認められており、またエジプトは国土の東側、紅海沿いに農地を確保したため、海上運賃が高くつくスエズ運河を通らずに収穫物を輸送することができる。

このように物流と通関の知識をフルに生かせば、品質のよい商品を低コストで取り揃えることも可能だ。逆に、現在のように消費者が品質・価格に敏感で国内市場も飽和に向かう中、国際貿易に目を向けずして利益を上げるのは困難だ。

当社のような輸入産業にとって、現在のような円高は追い風だが、対米ドル、対ユーロという視点だけでなく、円に対してより割安な通貨を探すのも大切だ。例えば、基軸通貨と現地通貨の連動率が低いエジプトやカンボジアなどに着目し、輸入を拡大すれば、利益に直結する。

このような考え方は、輸出入に関わる自動車や電機といった他業界では当たり前に実践されているが、不思議なことに食品小売りではまだ未開拓な領域である。

コストダウンの手法としては、取引業者に圧力をかけるより確実で効率的であり、また年収200万円市場が現実化した今、消費者に安くて安全・高品質な商品を届けるために不可欠であると思う。

海外に拠点を据えて製造から販売まで一気通貫で手がけるユニクロのような国際型SPAビジネスモデルを、小売業界も模索する時代にきている。

(石田純子=構成 浮田輝雄=撮影)