コンパクトだから、大人の学び直しに好都合
【佐藤】ただ、ペラペラだとカラー印刷が難しいから、紙は厚くなって、教科書自体が重くなった。必ずしも文字数が増えたのではないけれど、嵩も重量も増したわけです。それを何冊も持ち歩かなければならない今の小中学生は、けっこう大変です。
【池上】でも、国際標準からすると、日本の教科書はこれでも薄いんですよ。アメリカの義務教育の教科書なんて、ものすごく分厚い。大きな理由は、先生の質にあります。なんだかんだ言って、日本の先生の質は高いわけです。アメリカは必ずしもそうではないから、人によっては、教科のすべてを教えられない。だから、できるところだけをやって、「あとは教科書を読んでおきなさい」とやっても対応できるようになっている。そこでアメリカの教科書は懇切丁寧で、読めばわかるようになっている。結果として厚くならざるを得ないのです。
【佐藤】日本の場合は、教科書はあくまでも先生が授業を行うためのツールというわけですね。コンパクトにまとまっているというのは、社会人が学び直すうえでも、好都合なのではないでしょうか。
中2の教科書に「非接触型ICカード」の話が出てくる
【池上】読者の方に、さらに興味を持ってもらうために、今の中学の教科書にどんなことが書かれているのか、ちょっとだけ覗いておきましょうか。
【佐藤】さきほど、「読んでみたらいろいろ気づきがあった」とおっしゃいました。森羅万象を誰よりも詳しく解説するあの池上彰が、あらためて中学教科書のどこに「感じた」のかというのは、誰しも知りたいところだと思います。
【池上】それほど大げさな話ではありませんけど、例えば、2年生の理科で「電磁誘導」を習います。
【佐藤】コイルに磁石を近づけると、コイルに電圧が生じて誘導電流が発生する。
【池上】私が習った教科書には、螺旋状のコイルに棒磁石のN極を近づけたとき、遠ざけるときに、電流が流れる方向を矢印で示した図なんかが載っていて。
【佐藤】流れる向きが反対になる。
【池上】そうです。そういう説明が淡々と書かれていて、これは、この現象を発見した科学者の名を取って、「ファラデーの原理」と言います、と。確かそんな感じだったと思います。でも、今の教科書には、説明の後に、実はその原理が身の回りでも使われているんですよ、と鉄道乗車券や電子マネーなどの「非接触型ICカード」の話が出てくるのです。