中小企業庁は「企業育成庁」に変われ

とはいえ、私は下位の中小企業経営者個人を攻撃するつもりはありません。悪いのは、本来なら能力が達していない人でも経営ができてしまう環境をつくった政府です。

日本は中小企業基本法を制定した1963年以来、長らく中小企業優遇政策を取ってきました。それによって中小企業数が爆発的に増えて、1社あたりの従業員数も減りました。繰り返しになりますが、人口が増える時代ならそれでもよかったでしょう。しかし、人口減というパラダイムシフトがあったのに、中小企業庁はいまだに税制や補助金などの手厚い優遇策を続けています。税制優遇や補助金を増やすほど、本来は経営者にふさわしくない人も経営を続けます。アルコール依存症の患者にお金を渡せば、止めてもお酒を買いに行くのと同じ。中小企業庁は、間違った政策で“優しさ依存症”の経営者を増やそうとしているのです。

日本政府が取るべき政策は、雇用を減らさずに、中小企業、特に小規模企業を中心に再編や退場を進めて経営資源を優秀な経営者に集中させること。そして中堅企業を増やすことです。それでこそ日本の生産性は高まり、人口減・高齢化という強いデフレ圧力のもとでも脱デフレの道筋が見えてきます。

この連載では中小企業を手厳しく批判してきました。しかし、諸悪の根源は従来の中小企業庁の政策です。もう企業数の増加・維持を目標にすることをやめたほうがいい。中小企業が規模を拡大したくなるように成長を促して、それができないところは補助しない。場合によっては退場してもらう。要するに、「中小企業庁」ではなく、「企業育成庁」に変えるべきです。そうした政策に切り替えないかぎり、日本の未来はないと思います。

「日本だけ賃金減少」は本当か?

日本経済の低迷を裏づける話として、実質賃金の低下がよく話題にのぼります。本当にそうなのか、さっそくデータで確認してみましょう。

全国労働組合総連合がまとめたグラフでは、日本だけ賃金が減っているように見えます(図③)。しかし、このデータを鵜呑みにするのは危険です。この間、労働参加率が上がっているからです。第2次安倍内閣が発足してから、生産年齢人口が減っているのに、就業者は469万人増加しています。

就業者が増えた年齢層を具体的に挙げると、18~24歳と60歳以上です。そしてそのうちの約4分の3は女性です。

若者、高齢者、女性。これらの属性に共通しているのは、賃金が比較的低いこと。つまり、賃金の低い人たちが新たに就業者に加わったことが、全体の実質賃金を引き下げているのです。

本来であれば、同じ属性の賃金を追わなければなりません。たとえば、同じ規模の企業に勤める同じ世代の労働者の賃金を時系列で比べるべきでしょう。しかし、そうした統計は見当たりませんでした。比較するなら、労働者全体を含む選出のデータを使うほかありませんが、少し割り引いて見たほうがいいと思います。