ただし、同規模企業に勤める同世代の実質賃金をうまく抽出し、比較しても、日本は先進各国に比べて上がっていないと推測しています。いつかデータがきちんと整備されて、正しく比較されることを期待します。

日本にはそもそもデータがない!

世界各国の統計や国際的な論文を調べる中で苦労した点があります。それは日本の統計が十分でないこと。データの基準が省庁によって違っていたり、時期がずれていたりします。必要な統計調査がされていなかったり、遅かったり、データがあっても実態に即していなかったりするものばかりで分析するのがたいへんなのです。

たとえば日本では大企業と中小企業の生産性に関するデータも不十分です。中小企業白書のデータを見ると、企業数の最新データは16年ですが、業種別・規模別の付加価値データは15年のもので、ずれています。

ならば自分で分析するしかありませんが、企業規模ごとに労働者1人あたりの生産性を分析しようにも、そもそも日本では働いている人の総数がデータソースによって大きく異なります。

総務省・経済産業省の16年の「経済センサス-活動調査」によると、従業者数は5687万人となっています。一方、総務省「労働力調査(基本集計)2016年平均結果」によると、就業者数は6440万人で、経済センサスの数字とは753万人の開きがあります。これでは、どの統計を使うかによって分析結果が異なってしまう。まことに厄介です。

有給休暇取得率の分析をするときも困りました。厚労省が出している統計をよく見たら、従業員数30人未満の企業は対象外になっていました。

財務省のデータによると、従業員数30人未満の企業で働いている人は全体の約3割です。

小規模企業は、大企業に比べて有休取得率が低いのですから、厚労省発表の数字はかなりの下駄を履かされていると考えたほうがいい。日本の有休取得率は年々上がっていますが、それをそのまま受け止めるのは危ないです。日本のデータ収集の仕方は先進国と比べて明らかにビッグデータを十分に活用していない、従来の調査法が多すぎると感じます。

議論は個別のエピソードではなく、エビデンスにもとづいてなされるべきです。しかし、エビデンスとなる統計も、100%信用できるわけではない。とくに日本は不十分なところが目立つので、改善を望みたいですね。

(構成=村上 敬 撮影=相澤 正)
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