「円周率とは?」「3.14です」は大間違い

ふたつ目の事例を。

たとえばあなたに「円周率とは何でしょうか?」とたずねたとします。どう答えるでしょうか。もっとも多い答えがこれです。

「3.14です」

いいえ、そうではなくて、私は「円周率とは何か」を訊ねています。つまり円周率の定義です。円周率の値を訊ねているわけではありません。

円周率とは「円の直径の長さと円周の長さの比率のこと」です。どんな大きな(小さな)円でも、必ずその比率は一定の値になります。どんな大きな(小さな)円でも、です。それって誰が見つけたのでしょう! すごい発見ですよね!(数学好きの人間は、こういうところで興奮する性質があります)

どうやって見つけたのか。円というものの構造をどんなアプローチをして把握し、どう筋道を立てて結論を導いたのか。それこそが数学なのです。

おそらくかつての数学者たちも、円周率発見の過程において、論理コトバをたくさん使って思考したはずです。

・計算する数学→円の面積を求められるようにさせる(3.14として計算させる)
・計算しない数学→円周率とは何かを理解させ、説明できる状態にさせる

「3.14です」という答えが出るのは、前者の立場の教育を受けた結果です。円周率を単なる作業の道具としてしか認識していないことを端的に示しています。私が数学教師なら、後者のテーマで授業をするでしょう。数学でもっとも大切な論理コトバの使い方を学ぶことができますから。

「たとえば」「つまり」も数学コトバだった!

数学が主題の本なのに、主役が明らかに言葉であることに、あなたは少々戸惑っているかもしれません。理由は「数学」のイメージと「言葉」という概念の間に距離があるからでしょう。

そこで、いまからその戸惑いを消し去る作業をします。数学とはコトバを使う学問であり、そのコトバをここまでは「論理コトバ」として表現してきました。これをもっと端的なひと言で表現したい。そのため、私はこんな言葉をつくりました。

数学コトバ。

「数学」と「言葉」のあいだに距離があるのなら、いっそ結合させてしまえばいい。そんな単純な発想ですが、これ以上わかりやすく本質的な表現はありません。