読み聞かせで「他者を思いやる気持ち」を育てる

半分は主人公のネズミになりきってドキドキし、もう半分はネズミを客観視して「助けたい」と思う。この状態で絵本の世界と向き合うことが、人としての優しさや思いやりの土壌になっていきます。絵本に100%没入しがちな子どもを「半分なりきり、半分客観視」という理想的なスタンスに導くために不可欠なのが、親御さんによる読み聞かせと子どもへの声かけです。先の例ならば、物語のなかでネズミがピンチに陥った場面では、「ほら、ネズミさんが困っているね」「何とか助けてあげたいね」「何とかしてあげたいね」と、子どもに声をかける。

そのひと言で、子どもはなりきっていた困っている主人公からフッと離脱して、「自分」に引き戻されます。そして今度は物語を客観視して主人公を思いやり、「自分もネズミさんを助けてあげたい」と思うようになっていきます。

絵本のストーリーを追うだけでなく、場面の展開や子どもの感情に合わせて声をかけ、ふたりで話をする。主人公になりきって「他者の感情を理解する」だけでなく、主人公を客観視することで芽生える「他者を思いやる気持ち」も育てる。

親御さんは、子どもと絵本の世界とを結びつけ、その距離感を巧みに操る“ナビゲーター”なのです。

かつては昔話や民話から、大事なことを学んでいた

かつて子どもたちは、夕食後や夜寝る前などに、おじいさんやおばあさん、お父さんやお母さんに「何かお話しして」とおねだりし、その話に一心不乱に耳を傾けました。

愛情いっぱいに語られる昔話や民話などを聞きながら、自然に“人生で大事なこと”を学んでいったのです。

たとえば『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な漫画家・水木しげるさんの自伝漫画『のんのんばあとオレ』には、子どもの頃に「のんのんばあ」(実の祖母ではなく知り合いのおばあさん)が話してくれるおばけや妖怪の話が大好きで、それが自分の原点になっていることが描かれています。

また、小説家の中勘助が幼少時代の思い出を自伝風に綴った『銀の匙』という作品では、幼少の主人公である「私」が、自分を育ててくれたやさしい伯母さんから聞く昔話からいろいろなことを学んでいます。

夜寝るときになると、伯母さんが枕もとで百人一首を、節をつけてそらんじてくれる。

「私」はそれを聞いて、想像力をかき立てられながら眠りに落ちる――。そんな描写が出てきます。これなどもまさに「語り聞かせ」による子育てといえるでしょう。