中国のもとに返って、香港の自由が長続きするはずがない

イギリスの植民地だった香港が中国に返還されたのは1997年。返還後、香港は中国の特別行政区となり、2047年までは中国大陸とは異なる政治制度を維持しなければならない(一国二制度)。

香港返還時、香港は祝祭的な空気に彩られていた。返還前に海外へ移住した人たちもいたが、猶予期間中は香港の自由が保障されるのみならず、50年の間に中国の民主化すら進むのではないかという見立てもあった。日本でも楽観論はあったが、これを冷ややかに見ていたのが一部の台湾人であった。「中国のもとに返って、香港の自由が長続きするはずがない」と見ていたのである。

それはかつて台湾が通ってきた道でもあった。日本が敗戦し、統治が終わった後の台湾に大陸から蒋介石の中華民国政権がやってきた。彼らは「台湾は今、祖国に抱かれたのだ」と宣言し、台湾人も胸を熱くしたというが、実際には大陸からやってきた中国人(外省人)が、台湾に住む台湾人(本省人)を蹂躙した。

台湾の知識層を中心に2万人とも3万人ともいわれる人を殺害

台湾人が抵抗するとそれを口実に大々的な「鎮圧」を行い、実に38年もの戒厳令が続く事態となったのである。その間、知識層を中心に2万人とも3万人ともいわれる人々が殺害される白色テロが横行した。

台湾はその後、李登輝政権下で本格的に民主的な政治へ踏み出し、それ以前の国民党政権が行ってきた「中国化」の色を弱め、今に至る。中国・習近平主席は2019年に台湾にも一国二制度を適用すると宣言し、武力統一をも辞さない構えを見せているが、蔡英文は抵抗を強めており、台湾の人々もその方針を支えている。

香港では2014年、2019年と大規模なデモとそれに対する警察の過剰な弾圧に際し、かつて台湾で起きた白色テロを引き合いに出した言説が見られるようになっているという(前掲書)。台湾の側もこのことを強く意識しており、昨年11月、蔡英文はツイッターで次のメッセージを発信している。少し長いが全文引用したい。