現場を激しく責め立て、裏方には目を向けず
感染者の情報集約も、うまくいかなかった。
感染者を把握した都内の保健所は、都庁の担当部署に書類をファックスで送ることになっていた。だが、1台しかないファックスに受信が殺到し、エラーが続出した。最終的に、都が把握できなかった感染者は200人近くに上った。しかも、集計漏れがあったこと自体、5月になるまで気が付いていなかった。
集計漏れが相次いでいたのとほぼ同じ時期、小池氏はヤフー出身の宮坂学副知事に依頼し、新型コロナ専用サイトを作った。日々の感染者数や入院患者数などを視覚的に表現したといい、ソースコードを公開することで他自治体でも活用できると触れ込んだ。
小池氏は「感染状況を示す正確なデータの公表は都民の安心のために欠かせない。それを担保するのがこの仕組みだ」と豪語したが、足元では正確な数字の把握すらできていなかったのだから、皮肉というほかない。
5月に担当の幹部職員から集計漏れがあったと報告を受けた際、小池氏は激しく責め立てたという。地味な裏方仕事には、最後まで目を向けることはなかった。
「小池百合子のせいで、夜の街は死に絶えますよ」
6月に入り、感染者の発生は徐々に落ち着いてきた。小池氏は図書館や百貨店などの休業要請は早々に解除したものの、ライブハウスやキャバクラなど、夜の繁華街の店への休業要請については「政府の方針を待つ」と繰り返し、なかなか時期を示さなかった。休業要請をどの範囲にかけるかで、政府との対立も辞さなかった4月とは打って変わった恭順ぶりだった。
「命か経済か」と政府に迫って支持を広げた結果、身動きが取れなくなっていたともいえる。このフレーズは確かに分かりやすく、訴求力もある。だが、経済的に立ち行かなくなれば、自殺を選ぶ人は出てくる。経済は、簡単に命の問題に変わる。小池氏はそれに気付いていながら、目をそらした。
新宿・歌舞伎町のホストクラブ経営者は、悲痛な声で訴える。
「2カ月営業をストップしたら、死ねと言われているのと一緒。もう立ちゆかない。休業要請を厳密に守っていたら夜の店は死に絶えますよ。知事はその辺、分かっているんでしょうか」