政府が中心となり、地方創生戦略を実施して5年が経過したが、逆に東京圏の転入超過は増えている。こうした現状を踏まえれば、東京圏への人口流入を抑制するために必要となる費用や労力に比べ、それにより期待される出生数の押し上げ効果はあまりにも小さいと言わざるを得ない。結局わが国は、大幅な人口減少が続くことを前提とした社会に転換しつつ、若い世代が少しでも子供を産み・育てやすい環境を構築するため、若い世代の経済・社会環境を改善してゆくよりほかに道はないのである。

人手不足なのにコロナ禍で失業増加の「なぜ」

出生数の減少により懸念されるのは、将来的な人手不足である。実際、わが国は長期にわたり人手不足と言われる状況が続いていた。ところが、新型コロナの感染拡大により、わが国の雇用環境は一変した。それまでの人手不足から一転、足もとでは雇用調整が一気に進んでいる。

わが国において、新型コロナの前後で、ここまで人手の不足と過剰が如実に表れたのは、単なる経済活動の縮小の影響のみならず、生産性向上に向けたIT分野を含む企業の投資が十分に行われてこなかったことに、一因を見いだすことができる。IT投資が不十分であることの簡単な例を挙げれば、外出自粛を受け、テレワークが推奨されたが、Web会議ですら初めての試みであった企業も少なくない。

Web会議の成否で企業が倒産するとは思えないが、外資系の企業の中には、10年以上前から、世界中に展開する従業員がパソコンやスマホを通じて会議に参加することを原則としていた企業もある。わが国企業が、イノベーションの成果を導入しようとはせず、昔ながらのやり方を踏襲していたことの証左である。

わが国企業は、1990年代後半に起こった金融危機以降、内部留保を厚くする一方で、人件費を抑えるとともに(図表2)、ITの活用など技術革新の成果を取り込む投資が十分ではなかった。そのため、景気が良くなればなるほど、多くの人手を必要とする労働集約的で生産性の低い労働環境や産業構造が温存されたのである。