別の客船が汽笛を何度も鳴らすので何事かと思うと…
2月17日 9時少し前、この日最初の船内放送。
〈昨夜アメリカ国籍の乗客そしてクルーの一部が下船した。カナダの人たちは8時までに(放送時すでに過ぎている時刻なのだが)、大使館を通じて個人あてに帰国スケジュールが連絡されるだろう〉との内容。放送が終わってすぐあと、本船の前を横浜大さん橋に向かってクルーズ船ぱしふぃっくびいなす号が、大きな汽笛を何回も鳴らしながら通過していった。ダイヤモンド・プリンセスより2回りくらい小振りな船だ。すぐさま本船もお返しに数回の汽笛。
そしてすぐ船内放送。
船長は、〈ぱしふぃっくびいなす号のこのような励ましはとてもありがたく、私たちクルー一同は感謝している〉と述べた。おそろしく訛りの入った英語、次に自然な日本語通訳が入る。この船の放送の定番パターンである。
私は「へぇ、こんな汽笛で感激するのか、そんなものか」と驚くばかり。最初は前を通る客船があまりにも何度も汽笛を鳴らすので、何か行く手に障害物があるのかなどと、勘違いしたくらいだ。何も知らない素人の浅はかさだ。
センチメンタルでも、自分の言葉で語る能力に感心した
そういえば、2日前くらいからだっただろうか、アメリカ国籍保有者たちの帰国が現実になりだしたころから、乗客全員がこの困難であったクルーズの旅がいよいよ終盤に差しかかっている、そう感じだしていることに応えて、数度「私たちと皆さんは一つの仲間です。この仲間であることを誇りに思っています」といったような船長のメッセージが増えた。もともと隔離がはじまって数日後からだろうか「ここにいる人々は家族のように団結できると信じています。一緒にこの旅を成功に導きましょう」などと放送していた。
このような言葉を私は珍しく思い、メモをとっておいた。だからほぼ正確にここで書けるのだ。これだけではない、食事が提供されたときには、キャプテン自ら料理の説明をし、たしか「ボナぺティ(召し上がれ)」などとも言っていた。
最初これらの言葉を聞いたときには、「こんなことを言う前に乗客のひどい現状をなんとかしてくれよ!」とか「連絡窓口をもっとつくってくれ!」などと毒づいていたのだが、反面いかにもアメリカ人らしい言葉選びだな、まるでB級ハリウッド映画の台詞みたい、などとも感じていた。
実際は下船してから調べてみると、イタリア人のキャプテンということだった。
今思い出すのだが、隔離された私たちにとっては「船長はなっちゃあいないよ!」とか「ずいぶんセンチメンタルなことを言うねぇ」などと思いながらも、自分の言葉でしゃべるという彼のあの能力には感心していたのだ。