業界団体や観光庁の指導も入ったが

不審に思った女性は、インターネットを検索してみた。すると、4月出発のクルーズも中止され、参加予定だった人たちが、自分と同じ対応を受けていることを知った。「この人たちに一括返金しないのに、自分の旅行代金が戻ってくることはない」と思わざるを得なかった。

4月下旬になって、ジャパングレイスから2通目の封書が届いた。「みらい乗船券」による精算の新しいプラン(「積立プラン」と称する形で、返金の一部を現金での分割払いとし、残りをポイントで支払うスキーム)を提案する内容だった。会社側には現金支出を押さえられ、返済期間も短くなるメリットがあるだろうが、顧客側のメリットはよくわからない。

一通目の封書の後にジャパングレイスから届いた、ポイントによる新たな精算プランの提案。

「どこに相談していいかもわかりません。もうあきらめています」。夢を実現しようと思って支払った約200万円が戻る見込みは、現時点では立っていない。

ジャパングレイスは4月に2隻のクルーズを出発予定だった。乗客は合わせて2000人で、こちらはすべて会社都合でのキャンセルが発生している。この2000人も、一括返金ではなく3年間の分割払いの対応を求められている。

ジャパングレイスのこの対応には問題がある。旅行業約款第19条には、旅行開始前のキャンセルについては、契約解除の翌日から7日以内に払い戻しをすることが定められている。ジャパングレイスの対応は、約款に違反している可能性があるのだ。

旅行代理店の業界団体である日本旅行業協会は、ジャパングレイスから報告を受け、客に対してきちんと対応するように指導したという。このトラブルの苦情は、協会の消費者相談室で受け付けている。

さらに監督官庁の観光庁も、事態を問題視し、4月21日にジャパングレイスに対して行政指導を行った。約款通りに対応することと、どうしてもできない場合は、「営業保証金制度」を活用して、供託している営業保証金から客に弁済をするように指導している。ジャパングレイスは観光庁に「努力します」と答えたという。

主催会社に話を聞いてみると

しかし、ジャパングレイスは指導通りの対応はしていない。行政指導を受けた日は、石川県の女性が最後にやりとりをした日と同じだ。対応を変えないのか、ジャパングレイスに問い合わせると、広報担当者は観光庁から行政指導を受けたことを認めた。

そのうえで、新型コロナウイルスの影響により予想していなかった大量キャンセルという事態に陥ったため、一括返金はできないと説明する。

「非常にたくさんの方がキャンセルする中で、事業の継続と安定化も含めて、一括返金ではなく分割での返金をお願いしています。保証金の活用といっても供託している金額は数千万円です。金融機関からの借り入れも相談しているところです。いままでの実績も評価していただいて、ご理解いただけるようにお願いしています」(ジャパングレイス広報担当者)