「世界一周の船旅」で知られるピースボートが危機にひんしている。クルーズを主催する旅行会社は4月出発のツアーを中止したのに返金しておらず、観光庁から行政指導を受けた。しかし、その後もツアーの販売を続けている。ジャーナリストの田中圭太郎氏がトラブルの一部始終をリポートする――。
デッキチェア
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『分割でないと対応できない』の一点張り

「キャンセルを申し込んで一括で返してほしいと言っても、『今年7月から3年間の分割でないと対応できない』の一点張りです。その間に倒産したらお金は返ってこないのかと聞くと、『そうですね』とまるでひとごとのような返事でした。もうお金は戻ってこないだろうと、あきらめている状態です」

こう話すのは石川県に住む50代の女性だ。この女性は2022年12月から約3カ月間実施する世界一周クルーズへの参加を、去年夏に申し込んだ。料金は4人部屋で1人198万4000円。定価は257万円で、早割で30%引きだった。

クルーズは非政府組織(NGO)のピースボートが企画し、東京都新宿区の旅行会社ジャパングレイスが主催している。ジャパングレイスは1969年に創業し、ホームページによると2018年1月現在の従業員は120人。1995年から25年にわたってピースボートのクルーズを実施している。

「新造船による世界一周ツアー」という魅力的プラン

女性が申し込んだエコシップクルーズとは、2022年春にデビューする予定の新造船「エコシップ」による世界一周クルーズだった。最も高い客室は1000万円近く、従来のピースボートよりも全体的に料金は高めだ。それでも十分魅力的に映ったと女性は話す。

「去年4月にピースボートの見学会に参加して、新造船のことを知りました。世界一周の旅は昔からの夢で、行ったことがない南半球の旅で南極にも行けると聞き、魅力的に感じました。2022年12月からなら、3カ月休めるめどが立ったので申し込んだのです」

しかし新型コロナウイルスの感染拡大で、状況は一変した。2月3日に横浜港に寄港したダイヤモンド・プリンセス号は船内で感染が拡大。その後、欧州やアメリカで感染爆発が起きた。2022年12月といえども、南半球は観光どころではないだろうと思い、女性はキャンセルを決めた。