限界点を迎えつつある韓国の経済政策
さらに、文政権は“所得主導”の成長を目指し、経済の実力を無視して最低賃金を引き上げるなどし、企業の経営を悪化させた。韓国の金融政策は限界に近づいており、財政支出にも限りがある。文政権の経済運営はかなり難しい局面を迎えているように見える。
2018年、韓国の最低賃金は前年比16.4%に引き上げられた。2019年の賃上げ率は同10.9%だった。各年の韓国の実質GDP成長率は2.7%、2.0%だった。韓国経済が生み出す付加価値を大きく上回る賃上げが企業の体力を奪ったのは当然だ。
2018年には、米中の通商摩擦が激化し、世界全体でサプライチェーンに混乱が広がった。世界各国で企業が設備投資を見送るなどし、世界経済へのメモリ半導体などの供給基地として存在感を高めてきた韓国の輸出は減少した。
また、韓国にとって最大の輸出先である中国経済が成長の限界を迎えたことも、韓国の輸出減少に拍車をかけた。言い換えれば、韓国の企業は、国内外の両面で収益力を削ぐ複数の要因に直面したといえる。その結果、韓国の所得・雇用環境は急速に不安定化した。
資産を売却して債務返済に備える財閥系大手企業も
2020年1月以降、行き詰まり懸念が高まってきた韓国経済は、コロナ禍という追加的かつかなり大きなリスク要因に直面する。端的に、新型コロナウイルスの感染拡大により世界経済の動きが“遮断”された。感染対策のために各国が都市や国境を封鎖し、人の移動が強く制限されている。移動制限は、モノやサービスへの需要を急速に低下させ、モノの生産(供給)も停滞している。
半導体輸出、観光など海外の需要に依存してきた韓国にとって、この状況はかなり厳しい。今後、韓国企業の業績懸念は高まるだろう。財閥系大手企業の一角には、資産の売却を進めて手元のキャッシュポジションを厚くし、債務返済に備えようとする動きが出ている。
一方、経済格差の拡大と固定化が深刻となる中、韓国の家計は世界的な低金利に依存して借り入れを行い、消費を行ってきた。今後、韓国経済のファンダメンタルズが悪化するにつれ、家計の資金繰りに逼迫懸念が高まる展開は軽視できない。