ところが、この風向きが変わりつつある。きっかけは2001年に成立した改正育児・介護休業法。改正法では、転勤命令について、「子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」(26条)としている。


労働者が俄然有利!? 介護・看病を理由にした「転勤拒否判例」の流れ

「家族や本人に健康上の問題がある場合、転勤命令が無効になるケースは以前からありましたが、この法改正で、企業側に求められる配慮義務のハードルが一層高くなった。それを判例で示したのが、今回のネスレ日本の敗訴。育児については不透明な部分がありますが、介護を理由にした転勤拒否については、今後、企業側が負けるケースが増えるでしょう」(石井弁護士)

今後、高齢化が進んで、親の介護で身動きが取れなくなる家庭は確実に増えていく。提訴すれば転勤命令を無効にできる可能性は高い。しかし訴訟の負担を考えれば、最初から転勤を命じられない環境づくりをしたほうがいい。

「事前に家族の健康上の問題を会社に報告しておけば、余計なトラブルは避けられるはずです。その一方で家族のプライバシーを会社に明かすことに躊躇する人もいるでしょう。企業側も、配属希望アンケートなどの実施に際しては、労働者の心情および個人情報保護法に配慮した情報収集体制を整えるべきです」(同)

それでも受け入れ難い転勤命令が下されたときは、一昨年にスタートした労働審判制度を利用するといい。これは個別の労使紛争を、3回以内の審理で解決に導く制度。裁判と違い審理非公開なので、家族のプライバシーを公にしないですむ。

「裁判は命令が有効か無効かという権利義務関係だけで判断しますが、労働審判では、今後の処遇なども含めて柔軟な解決を図ります。勤務地は同じで配属先を替えるという交渉も可能で、それがこの制度のメリットともいえます」(同)

(ライヴ・アート=図版作成)