7月は中国人が「日本」に敏感になる

蒼井そらは、この日、中国人女性と韓国人男性の3人で組むユニット、「果宝醤(英語名JAM)」のリードボーカルとして登場し、アップテンポの歌とダンスを披露した。

観客の大部分は、ステージ目的ではなく、テーマパークに遊びに来ていた人だったはずである。だが、ほとんどの人が、蒼井そらの名と、彼女が日本人であると知っていた。

「前から知っていました。きょう本人を見たけど、とても綺麗」
「彼女はとても明るいから好きです」

こうした声は、男性のみならず、女性からも聞かれた。

日中戦争の口火を切った盧溝橋事件は7月7日に起きた。そのため、中国で7月は「日本」というワードに対して敏感な時期と言われる。しかしここに「反日」の影は全く無かった。

「尖閣諸島は中国のモノ。蒼井そらは世界のモノ」

先に触れたように、2012年9月、日本政府が尖閣諸島の国有化を決めたことをきっかけに中国全土で反日デモの嵐が吹き荒れた。

デモ隊は、「日本は出て行け」「小日本(日本の蔑称)」と激しく罵る標語のプラカードを掲げ、シュプレヒコールを上げながら行進した。このデモで、若者たちの掲げるプラカードや壁の落書きに、不思議なフレーズが登場した。

「尖閣諸島は中国のモノ。蒼井そらは世界のモノ」

あれ、デモ隊、「日本製品はボイコット」って叫んでいなかったっけ? と突っ込みたくなるが、一方で、若い世代のユーモア感覚に感心した。何より、日本排斥を叫ぶ反日デモの最中にあっても、蒼井そらだけは中国にいて欲しい、と思われるほど、彼女は愛されているのだ。

中国では裸になる仕事はしていない

蒼井そらの中国での事務所は、北京中心部から少し離れた芸術家が多く住むエリアにある。倉庫のような天井の高い建物で、開放感があった。

反日デモから2年が過ぎた2014年7月、彼女の活動を通じて見える中国人の日本に対する本音を描きたい、とお願いしたところ、快くインタビューに応じてくれた。

「よろしくお願いします」と、麦藁帽の載った頭をひょこっと下げた彼女の第一印象は、小柄。

プロフィールによれば1983年生まれ。2002年にAVデビュー。アイドル歌手のようなルックスと身体は小柄ながら豊満なバストが売り。本人は自著『ぶっちゃけ蒼井そら』(ベスト新書)で「妹系AV女優」として時代の需要に乗ったと分析している。

AVで一躍人気者になり、その後、バラエティやドラマなどに活動の幅を広げた。とはいえ、日本で数多いるAV女優の中で、何故、蒼井そらだけが、特別に中国での人気に火がついたのか? 中国では裸になる仕事はしていない。

きっかけは中国版ツイッター「ウェイボー」

本人や関係者によれば、きっかけは中国版ツイッター「ウェイボー」を始めたためという。一部のファンは、2010年4月に起きた青海地震の際に、彼女がいち早く支援の募金を呼びかけたことで、人気に拍車がかかったと指摘する。

理由はともあれ、取材当時、彼女のウェイボーのフォロワーは1500万人以上。日本人タレントとしては、私の知る限り断トツのトップだし、中国の人気スターにも引けを取っていない。