かぜは一時的に防衛が破られること

かぜとは、体の複数の防御を一時的に乗り越えて、ウイルスが体の中に侵入した状態をいう。

ウイルスはめっちゃくちゃに小さいのだが、それがごく少量体内に忍び込んで、スパイかニンジャかゲリラ部隊か、とにかくこそこそと血液の中に侵入して全身を巡りながら増える。

血液中にも防御部隊はいるので(白血球など)、侵入したニンジャたちをやっつけにかかるが、潜伏がうまいタイプを叩ききれず、増殖を一時的に許してしまうことがある。

すると、増殖したウイルスは、体のあちこちで防御部隊と戦闘をはじめる。

イラスト=うてのての

防御部隊はウイルスを倒すため、催涙弾を撒いたり、熱で攻撃をしたり、放水してウイルスを押し流したりするようになる。

バトルが激化すると、火の粉が飛んで、周囲に被害が出始める。鼻水や鼻づまりが生じ、ノドの痛みが生じ、全身が発熱し、だるさが出る。

人体の防御部隊は強く、数日後にはウイルスを駆逐する

ここは勘違いしている人が多いのだが、鼻かぜだからといってウイルスが鼻の周りにだけいるわけではない。もしそうなら鼻かぜで微熱が出るメカニズムが説明できない。

鼻かぜであっても微妙にのどが痛み、微妙に熱が出る。関節が痛くなることもある。これはウイルスが全身を巡って、あちこちで警備員たちと戦闘しているからだ。だから、かぜでは基本的に、複数の場所に症状が出る。あやうし、人体!?

しかし、人体の防御部隊は本当に強いので、ウイルスが全身を巡っていても数日後にはまず間違いなくウイルスを駆逐する。だから治る。ここまでの現象をすべてまとめたものが「かぜ」だ。たかがかぜでも、人体の中ではそれなりに大事件が起こっているのである。

かぜとは、「わりと短い期間で、人間が自力で勝てる感染症」。イメージがつかめただろうか?

肺炎は細菌が肺でがんがん増えている状態

これに対して、もう少し怖い「肺炎」はどうかというと。

そもそも原因が違うことが多いのだが、原因微生物の違いを詳しく説明したところで喜ぶのは医療関係者くらいだ。ウイルスではなく細菌のことが多いです、抗生物質が効くことがあります、まあそうなんだけれど、もっとイメージを柔軟に広げよう。

肺炎の場合は、原因となる微生物(細菌やウイルス)が、肺という局所でがんがん増えている。ゲリラ戦法ではなくて大軍でカタマリになって突撃してくるかんじ。

頼りになる防御部隊はスパイや軍隊を毎日はじき返し続けているわけだけれども、まれに城門が破壊されて大軍の侵入を許すことがある。この場合、人体の防御部隊では勝ちきれないこともある。

勝ちきれない? 死ぬってこと? そう。勝ちきれないというのは死ぬということだ。

病原体の大軍が人体に突撃してきて、全身を巡り始めてしまうと、防御部隊との戦闘は苛烈を極める。ついには敗血症と呼ばれる状態を招き、全身の臓器に多大なダメージが蓄積され、命が奪われる。戦争によって国が滅びるのだ。