規模の経済で生産コストは下がるが

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サプライチェーンの集中化が進む理由

最近の自動車産業や電子産業で用いられている非統合型のサプライチェーンは、水平分業型と呼ばれることがある。この概念を使おうとする気持ちはわかる。垂直統合とは対照的なサプライチェーンだということをいいたくて、垂直の対語で水平、統合の対語として分業という言葉が用いられたのだろう。しかし、この2つの言葉の組み合わせである水平分業という概念は意味不明である。そもそも統合の逆は分業ではなく非統合である。統合であっても非統合であっても分業は起こっている。垂直統合というのは、垂直的な企業間分業のガバナンスの一つの方式だ。垂直統合が行われていないということをいうのなら垂直非統合というべきだろう。上で述べた独立型と協働型という2つの方式は、垂直非統合のガバナンスについての異なった方式である。

独立型は、企業間の取引関係が流動的で取引ごとに、最も有利な条件を出す企業と取引が行われるようなサプライチェーンである。ここでの取引のガバナンスは、不満なら他の相手と取引するという方法である。これに対して協働型は、サプライヤーと顧客がお互いの要望にこたえるように仕事をすることによって協働の利益を得て、その共通の利益を取引パートナー間で分かち合うという取引の方式である。協働の利益には多様なものがある。この場合には、それぞれの要望を相手に伝えるという手段が用いられる。共通の利益の典型は、サプライヤーが部品をジャストインタイムで供給して部品の不良在庫化を防ぐことによってサプライヤーと顧客が得るメリットである。同じく、買い手の側が生産を平準化し、サプライヤーの仕事をしやすくしてやることによって部品の製造コストを節約させるというメリットも協働の利益である。このような協働の利益を得るためには、継続的な関係をつくることが必要である。

エレクトロニクス産業では、独立型のサプライチェーンが支配的で、日本の自動車産業では、協働型のサプライチェーンが優位である。

協働型も、独立型も、集中化が起こる。そこに共通した理由もあるが、それぞれで異なった理由もある。どちらかの方式をとるから集中化が起こるのではない。いずれであっても集中化が起こるのである。

両者に共通した集中化の理由は規模の経済である。集中化によって生産を集約できれば規模の経済が働いて生産コストを下げることができる。独立型、協働型のいずれであっても、集中化によって規模の経済が実現できるのは共通である。

それぞれで異なった理由もある。

独立型の場合に集中化が起こる理由の第一は競争による淘汰である。サプライヤー間の競争を通じて強いところに生産が集中化するという理由である。それだけではない。自社の利益を求めるサプライヤーは、自分たちにしかない技術によって支えられた独自製品を志向する。それによって利益を高めることができるからである。また、強者の仕様が 業界標準になると顧客は強いサプライヤーの仕様に合わせて製品を設計するようになる。それによってサプライヤーはみずからの交渉力を高めることができる。

協働型で集中化が起こる第一の理由は、上手な協働を通じて顧客価値を高めることができるサプライヤーに注文が集中することである。それによって顧客は特定のサプライヤーに依存するようになる。逆にサプライヤーも特定の顧客への依存度を高める。お互いに抜けられない相互依存関係ができ上がってしまうのである。もう一つの理由として、供給のリスクを考えたサプライヤーの分散が短期的にはコストの上昇や新たなリスクを生み出すという理由もある。供給先の分散を狙って他社から供給を受けた部品がリコールの原因となったという例もある。リスクの分散そのものにもリスクがあるのである。このように考えれば、協働型、独立型のいずれであっても、サプライチェーンの集中化が起こる。そこには合理的な理由がある。ここで分散化を行おうとすると、明確な狙いをもって、短期的なコストの上昇やリスクの発生に耐えなければならないのである。