ヨーコの名刺に初めて笑顔を見せたママ
翌日、ホテルのロビーで日本から到着したばかりのヨーコに、状況が変わってバンコクでステージを行うのは難しくなったことと、新たな案として、バンコク以上にバーが乱立しているパタヤに行ったほうがいいかもしれないと伝えた。すると、ヨーコは動じることもなく言った。
「明日、もう一度最初の店に行ってみましょうよ」
昨日の店の様子だと、いくら彼女が行っても厳しいのではないかと思ったが、私は彼女の言葉に従った。
翌日、私はヨーコとバーへ向かった。心の中は、断られるという思いで占められていた。
店内に入ると、すでに営業ははじまっていて、2組ほどの白人男性がいた。私たちの姿を見かけると、昨日駄目だと言ったママが席へとやって来た。すぐに嫌な顔をされて追い払われるかと思ったら、どうも雰囲気が違う。再び交渉に応じてくれた。実際に芸を行うヨーコの姿を眼の当たりにしたことで、簡単には追い払えなかったのかもしれない。
ママに、彼女が芸を行うヨーコだと伝え、性器から火を噴く芸がやりたいこと、短い時間で終えることなどを伝えた。ヨーコが性器から火を噴いているイラストが入った名刺をママに渡すと、昨日まで無表情だった彼女が初めて笑った。
「私には判断ができないので、社長に電話をします」
「営業中は駄目だ、スタッフも撮らないでくれ」
ママは店の奥に消えることはなく、私たちの目の前で電話をかけた。すぐに電話が社長に繋がったようだ。何やら説明している。すると今度は電話を私に渡した。この時、私は昨日とは違う空気の変化を感じていた。
電話口から男の声がする。
「あなた方のやりたいことはわかったけれど、営業中は駄目だ。それと、ステージにいるスタッフの写真は絶対に撮っちゃ駄目だよ。店の中の写真は撮ってもいいけど、ステージにいるのはその火を噴く女性だけにしてくれ」
私は店の営業前にやること、バーのステージの様子も撮らないことを約束した。何度か社長が同じことを繰り返し、念押しをした後、今度は直接バーに来て私たちと話す、と言い出した。わざわざ出向いて来るということは、ステージができる可能性は高いと思った。
しばらくして、醤油で煮染めたようなTシャツを着た、風采の上がらない初老の男が現れた。てっきり店の従業員かと思ったら、この店の社長だという。顔つきは中国系だから、間違いなく華人だろう。