ゴーゴーバーで行われる“花電車”

バンコクでの花電車芸の披露は、ヨーコが毎年休みを取る2月の初旬に決まった。友人にバンコクのストリップ事情を調べてもらったところ、観光客向けの売春施設である何軒かのゴーゴーバーで花電車をやっているという。

果たして、それらのバーが取材を受けてくれるかどうか。私はとりあえず、ヨーコより先にバンコクへ向かって段取りをつけることにした。

ヨーコがバンコク入りする前日、バンコク在住の友人と実際に花電車芸が行われているバーへ足を運んだ。その店は、ベトナム戦争時代に米兵相手の売春からはじまった歓楽街、今では世界中から観光客が訪れるパッポンストリートにあった。

私は一抹の不安を抱えながら、大音響でロックが流れ、話も満足に聞き取ることができない通りを歩いた。店は、通りの中ほどの2階にあった。

チップに手を合わせるストリッパーたち

店はちょうど開店したばかりだったが、店内にはちらほらと白人客の姿があった。円形のステージを囲むように席があり、ステージ上には、水着姿で浅黒い肌をし、小柄でずんぐりむっくりの体形をしたストリッパーがいた。年の頃は30代半ばから40代といったところだろうか。どんな芸を見せるのかと思ったら、性器から続けざまにピンポン玉を出した。

日本の劇場のように拍手がわき起こるわけでもなく、白人の客がビールを片手に興味なげに眺めていた。それでもストリッパーたちは、大音響のロックが掛かる店の中で芸を続けていた。ピンポン玉の次は、バナナの実を性器から出した。やはりその場の空気は変わらぬままだ。ストリッパーたちは、自分たちの持ち芸をただ淡々とこなしている。私が少しばかりのチップを渡すと、まるで仏像でも拝むように、ストリッパーは何かをつぶやきながら手を合わせた。

白けた店の中で、私はひとり感動していた。花電車芸は、どのような道筋をたどってここバンコクで演じられているのか。日本と同様、この国でも売春は大っぴらに行われているものの、花電車芸のルーツについて記された記録は、私の知る限り存在しない。あくまでも私の推論になってしまうが、バンコクでゴーゴーバーやソープランドを経営している者には、華僑が少なくない。風俗産業ばかりでなく、経済を牛耳っているのは華僑である。バンコクには巨大なチャイナタウンもあり、その影響力には強いものがある。花電車芸も、華僑がもたらしたものではないか。(続く)

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