中国市場からの撤退は失敗か成功か

——ウーバーは巨大市場である中国からも撤退しました。本書でも、カラニックが中国市場で敗北した様子が生々しく描かれています。

【田中】日本と違ってブランディングはうまくいっていましたよね。カラニックのアウトローなところがウケたのか、それともそもそもウーバーの犯罪的行為が報じられていなかったのか。それはわかりませんが、中国でカラニックは悪役というよりヒーローとして迎えられていました。

アダム ラシンスキー(著)、小浜 杳(翻訳)『WILD RIDE(ワイルドライド) ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語』(東洋館出版社)

撤退したのは、DiDiと底のない戦いに突入することがわかったからでしょう。2016年8月、ウーバーはDiDiの17.7%の株式と引き換えに、中国事業をDiDiに売却すると発表しました。この時点で、DiDiにはアリババとテンセント両方の資本が入っていました。いわばオールチャイナで、向こうは国の威信をかけて倒れるまで戦う覚悟。撤退はいい判断だったと思います。

消耗戦になると、資金力のない企業は不利です。日本でもQRコード決済市場は消耗戦です。結果、先発だったorigamiが息切れしてメルカリに身売りしました。これからも事業者の淘汰は進むでしょう。中国市場におけるウーバーも似た構図ですね。

ただ、origamiがタダ同然で売却されたのに対して、ウーバーはあの取引でDiDiの筆頭株主になっています。ウーバーが得る利益を考えると、負けたとまでは言えない。負けは負けでも、いい負けだったのではないでしょうか。

(聞き手・構成=村上 敬 撮影=浦 正弘)
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