原発の廃炉作業をする会社が実施する「ヒヤリ・ハット対策」

「ミス対策」というと受験の世界には依然、上から目線で生徒たちに「気をつけろ」「見直しをきちんとしろ」とおおざっぱなアドバイスをする教師や講師がいる。一般のビジネス社会と異なり、学校や予備校・塾は閉じられた世界であり、だからそんな物言いが通じるのかもしれない。

私は、医療者としての仕事の一環で、原子力発電所の廃炉作業をしている会社の産業医も務めている。その関係で毎月、同社の安全委員会に出席している。

ちょっとしたミスも許されない原発の作業現場における最も効果的なミス対策は、いわゆるヒヤリ・ハットや些細ささいな事故をしっかりと報告するということだ。ヒヤリ・ハットとは、大きな災害や事故とはならなかったものの、そうなってもおかしくない事例のことをいう。

この事例をなるべく全員で共有することが重大事例を防ぐことにつながる。この認識のもと、委員会ですべてを報告し、委員間で共有した上で従業員にも伝えることになっている。

1つの重大事故の背後には29の軽微な事故があり、その背景には300のヒヤリ・ハットが存在する
写真=iStock.com/ByoungJoo
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これは労働災害の分野でよく知られている「ハインリッヒの法則」である。同社でもこれに基づいて、ヒヤリ・ハット事例を報告することが重大事故を防ぐという考えを徹底させているのだ。こうした姿勢・取り組みを、受験生や仕事場に応用するのは有効だと思う。

失敗学権威が語る「失敗は成功のもとではない」「失敗博物館を作れ」

「ヒヤリ・ハットの情報共有」のほかに私が支持するケアレスミス対策が「失敗学」である。「失敗学」とは、発生した失敗の直接原因と、その奥にある根幹原因を究明する学問で、東京大学教授の畑村洋太郎氏が発案・提唱しているものである。私は、畑村教授と共著で『東大で検証!! 失敗を絶対、成功に変える技術』(アスキー・2001年)を出した。

畑村教授の本書での言説は痛快だ。

「失敗は成功のもとなどではなく、放っておくと人間は必ずと言っていいほど、同じ失敗をする」

だからこそ、以前どんな失敗をしたかをしっかり認知し、その原因を知っておかなければならない。畑村教授は、そのために人間が過去に犯した失敗をデータベース化し、「失敗博物館をつくれ」と提唱していた。