さらに、家事代行サービスへ支出する確率やその支出額の増加は、賃金の高い女性に限られており、それ以外の女性、つまり、全体の75%の女性には認められなかった。
移民の存在は女性の社会進出を後押しするか
まとめると、単純労働者である移民が増えると、一部の女性は家事代行サービスなどを利用して勤務時間を増やしている。それは、賃金や教育水準が高く、高度な技能を必要とする職業で働いている女性だ。しかし、それ以外のほとんどの女性には、こうした影響はない。恩恵を受けている人とそうでない人がいるのだ。
こうした研究を見ると、日本において家事代行や育児支援サービスの分野で外国人労働者の受け入れを拡大しても、恩恵を受けるのは一部の女性かもしれない。また、現在働いていない女性が働くようになる可能性も、あまり高くないことになる。ただ、受け入れる外国人数や女性の社会進出を支援する政府からの補助金などによって、周辺環境は大きく変わる。将来的な諸要因の変化により、実際にどのような効果があるかは不明だ。
男性の所得格差が拡大してしまうワケ
ここまでの議論では、女性の社会進出は推進すべき目標ととらえている(現在の日本政府のように)。その目標達成のため、移民が役立つかどうかを考えてきた。
ここからは、女性の社会進出に関連して、面白い研究結果を少しだけ見てみよう。移民とは直接関係ないが、女性の社会進出がもたらす影響についてである。女性の社会進出が急激に進むと、思わぬ影響があるかもしれない。
マサチューセッツ工科大学のアセモグルらは、女性が働くようになったことで、男性・女性の賃金が下がっただけでなく、男性の間で所得格差が拡大した事例を紹介している(注2)。女性が高卒男性と競合したため、高卒男子の賃金が低下し、高卒男性と大卒男性の格差が開いてしまったというのだ。
これは、第二次世界大戦によって引き起こされたアメリカにおける女性の労働力参加について研究した結果だ。戦争によって多くの男性が徴兵されたが、男性の動員が多い州ほど、戦後や1950年には、より多くの女性が働くようになっていた。40年には見られなかった傾向である。戦争を契機に、女性が社会に進出したのである。
その結果、労働市場において、いくつかの大きな変化があった。まず、多くの女性が働くようになったことで、女性の賃金が低下したことだ。推計では、男性労働者に対する女性労働者の割合(女性の労働者数を男性の労働者数で割ったもの)が10%増えると、女性の賃金が7%から8%低下する。
注2:Acemoglu, D., D.H. Autor, and D. Lyle, 2004, Women, War, and Wages: The Effect of Female Labor Supply on the Wage Structure at Midcentury, Journal of Political Economy 112(3), 497‐551.