「白すぎるオスカー」と猛烈な批判を浴びる

それにしても、なぜこんなに増やすのでしょうか。

実は2000年代前半くらいまでのアカデミー協会員は「白人男性」が大半を占めていました。非白人である黒人、ヒスパニック系、アジア系、そして女性は、映画界でどれだけ活躍していても、なかなか会員になることができなかったのです。

このようなAMPASの体質は、10年代以降の世界的なダイバーシティ(多様性)のトレンドのなかで「時代遅れ」と批判を浴びるようになります。

極めつけは、2015年と16年に2年連続で俳優部門にノミネートされた俳優が白人だけだったこと。それをきっかけに、AMPASは「白すぎるオスカー(#OscarsSoWhite)」と猛烈に批判されました。

そこで当時のAMPAS会長シェリル・ブーン・アイザックス(黒人女性)は、2020年までに女性と非白人の会員数を倍増させると宣言しました。実際、2019年の招待者842人のうち、女性の割合は50パーセントで過去最多。有色人種の割合は29パーセント、出身国は59カ国にわたりました。

多様化による票割れ、予想屋には悩ましい部分も

当然ですが、メンバー数の増大とそれに伴う人種・性別内訳の多様化は、映画産業の発展においては100パーセント正しいことです。が、予想屋の立場として考えると、ちょっと悩ましい部分があります。

なぜなら昔は「白人のおじいちゃんが好きそうな映画」を選んでおけば、大体間違いがなかったからです。加えてハリウッドにはユダヤ系の関係者が多数、という実態があるので、たとえば「ナチスドイツが舞台の第二次世界大戦もの」が強いことは、周知の事実でした(第66回の作品賞・監督賞である『シンドラーのリスト』はその最たる例)。

しかし今は、投票者の人種・性別の内訳がバランスよく均されているので、票割れしてしまって予想の難易度が格段に上がりました。また、時代の流れと共にナチスドイツは遠い過去の話になり、社会情勢も変化を続けているため、人々の関心事も多様化しています。15年前まで通用していた定説の一角が完全に崩れた形で、私としては手持ちの駒がひとつ減ったような感覚も否めません。