解約すると「相続放棄」ができなくなる
一方、相続人からすると、協力したいけどできないという問題点もあります。賃貸借契約の解約や荷物の処分が単純承認とみなされ、その後、相続放棄ができなくなる可能性もあるというハードルです。
縁が薄くなると、亡くなった賃借人が多額の借金を抱えていたという事情も把握できていないこともあるでしょう。亡くなる前に、家賃を滞納しているかもしれません。プラスの財産がなさそうだなと思えば、後から借金取りがきたら怖いから、保身のために相続放棄をしたいという相続人も少なくありません。
ただ相続放棄という手続きは、財産を受けるか放棄するかの2択しかありません。財産を処分したりすると、それはいったん相続人が財産を相続した上でのこととみなされるので、相続放棄はできなくなります。賃貸借契約の解除も、財産の処分とみなされるので、原則はその後の相続放棄はできなくなります。
この点は、単純承認としなくてもいいのではという学説上の争いはありますが、少し知識のある人なら「放棄ができなくなる」という可能性から関わりません、という結論に至ることが多いのです。その結果、家主側はとても困ることになるという堂々巡りです。
夜逃げされた部屋に骨壺が残されていた…
仮に荷物の処分を同意してくれたとしても、撤去の費用まで負担する相続人はほとんどいないでしょう。そうなるとその費用は家主負担にならざるを得ず、これが高齢者を受け入れない要因のひとつであることは間違いありません。
私が賃貸トラブルに携わり始めた17年前、夜逃げされた部屋の中に骨壺がそのまま残されていたことに驚きました。しかし近年、骨壺、遺影、位牌が部屋にそのまま残されているという事件は、年間2桁数あります。全国規模に換算すると、かなりの数ではないでしょうか。強制執行の補助をする業者は、これらを勝手に処分できないため年に1、2回自らの費用でお寺に引き取ってもらうと言います。
電車の網棚にも、骨壺を忘れ物として放置。JRでは落とし物の種類としては、上位にくるようです。さらに納骨のため、全国から宅配便でお寺に送られてくる時代でもあります。それだけ家族の縁が薄くなったということでしょう。亡くなった後の遺骨さえ放置される世知辛い世の中で、契約の解約手続きや部屋の片付けなぞ望めないのも仕方がないことかもしれません。だからと言って、その負担を民間の家主が背負うということもおかしな話です。