終身建物賃貸借契約は全体の約0.06%

国は知事の認可を受けた場合だけ、終身建物賃貸借契約を認めています。その特徴として賃貸借契約は相続されず、賃借人が亡くなった場合には終了するというものです。同居の配偶者や60歳以上の親族は、賃借人が亡くなった後でも継続的に居住することが可能となっていて、単身者以外にも配慮されています。

家主側にとっては、無用な建物賃貸借契約の長期化を避けることができるので良いのですが、無条件に許される訳ではありません。認可を受けた物件だけが許される契約です。ところが広さやバリアフリー等の規制や、申請にかかる添付書面の煩雑さから、創設から20年近く経ち、2018年9月に改正された以降も認可実績はほとんどありません。全国賃貸住宅経営者協会連合会の推計によると、2013年時点での認可を受けた民間賃貸住宅は、全体の約0.06%にしか過ぎなかったのです。

実態に合わせた法改正が必要だ

家主や事業者が「相続されたときの煩雑さ」が理由で高齢者を拒むなら、条件をつけずに終身建物賃貸借契約を認めればいいと私は思っています。法は賃借人に不利なことは無効としているため、契約は相続されるのが原則です。ただ今の世の中、借りる側にとって、自分一代で契約が終了することはどれだけ不利な要因なのでしょうか。

賃借人も状況はそれぞれなので、借りるときに自由に選べたらいいのでは、そう思うのです。

たとえば、

①終身建物賃貸借契約
②配偶者や同居の親族は契約を相続
③従来通り相続

この中からそれぞれの自由意思で選択ができるなら、借りる側も負担がないし、貸す側のリスクもかなり軽減されます。

太田垣章子『老後に住める家がない!』(ポプラ新書)

私も賃貸物件に住んでいますが、亡くなったときに契約が相続されるのではなく、むしろ終了していただきたい、心からそう思います。終わらなければ、結局離れて住む息子に手続きをしてもらうしかないからです。子どもには迷惑かけたくありません。同じように感じている方も、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

ところが法務省は、「相続人と契約の解約手続きをとればいい」と考えているようで、終身建物賃貸借契約は、認可を受けた物件のみという限られた場合にしか認められていません。身寄りのない賃借人の相続人を探し出す、これがどれだけ民間の家主にとって負担なことか、知っていただきたいです。仮に探し出されたとしても相続放棄されてしまえば、解約の手続きはできません。終結するまで、次の賃借人を得ることもできません。

これから急速に超高齢化社会に突入する日本は、早期に現場の声を吸い上げ、法改正していくことが必要ではないでしょうか。

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