覚醒剤を禁止したから、中毒者は盗みを働く

「盗品売買の経済学」に照らして考えれば、一人の中毒者が彼の習慣を維持するために手当たり次第に犯罪に手を染めるのは明白である。シャブを手に入れるのに必要な年間400万円を稼ぐために、中毒者はその5倍、おおよそ2000万円分の盗みをはたらかなければならない。なぜなら盗品の故買人は、小売価格の20パーセント以下しか支払わないからだ。仮に犯罪をいとわない1万人の覚醒剤中毒者がいれば、彼らによる被害は年間で総額2000億円を超えることになる。

こうした被害は、覚醒剤による中毒のためではなく法によって覚醒剤を禁止した結果だということは、どれほど強調してもしすぎることはない。シャブの末端価格を容易に手が届かないところにまで引き上げ、中毒者たちを自分か被害者の死をもって終わりを迎えるほかない犯罪者人生にり立てるものこそ、覚醒剤取締法なのである。

麻酔剤中毒の医師や糖尿病患者と何が違うのか

この点を証明するために、麻酔剤中毒の医師について考えてみよう。麻酔科医を中心に、医師による麻酔剤の濫用らんようは深刻な問題になっているが、彼らが吸引する麻薬は合法的に購入されたものであり、病院の管理部門をうまくごまかせば無料ただで入手することができる。この「薬物中毒」状態は、医学的には彼が糖尿病でインシュリンに依存しているのとたいしたちがいはない。いずれの「依存症」も、この医者がプロフェッショナルとして仕事をするのになんの支障もなく、事実、彼らのほとんどは優秀な医師であり、患者からしたわれ、同僚からも信頼されている。

だが、もし合法的な麻酔薬の供給が断たれれば(あるいはインシュリンが突然、違法化されれば)、この状況は一変する。麻薬中毒の医師は路上の密売人のなすがままとなり、ドラッグの質を確かめることもできずに、必要を満たすために法外な対価を支払わされることになる。

こうした環境のもとでは、薬物中毒の医師の人生はより厳しいものになるだろうが、しかし壊滅的というわけではない。彼らの職業は、薬物依存の習慣を維持するために必要な年間400万円の費用を比較的容易にまかなうことができるからだ。しかし、それがなんの資格も経験も持たないフリーターやニートの若者たちであったらどうだろう?