日本は「覚醒剤大国」だ。覚醒剤の押収量は不正薬物全体の約8割を占めている。どのように密輸され、売られているのか。龍谷大学嘱託研究員の廣末登さんが解説する――。
曇りガラスに人影
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令和元年、摘発件数が過去最高を記録

覚醒剤の取引――これは暴力団員等がからんだ犯罪としては鉄板ネタで、あの手この手を使って日本国内に密輸しようという試みがなされている。

コロナ禍直前、令和元年の全国の税関における関税法違反事件の取り締まり状況(令和2年2月12日)詳細をみると、覚醒剤の摘発件数は、425件(前年比約2.5倍)と大幅に増加し、過去最高を記録した。覚醒剤の押収量も、約2570kg(前年比約2.2倍)と大幅に増加。史上初めて2.5トンを超えるとともに4年連続1トン超えとなった。さらに、洋上取引2件で計約1.6トンに上り、押収量全体の約半数以上を占めた。

わが国への覚醒剤の流入は特に深刻だ。覚醒剤の押収量は不正薬物全体の約8割を占める。押収した覚醒剤は、薬物乱用者の通常使用量で約8566万回分、末端価格にして約1542億円に相当するとあり、とても深刻な状況がうかがえる。

なお、大麻やその他薬物(あへん、麻薬=ヘロイン、コカイン、MDMA等、向精神薬および指定薬物を指す)不正薬物全体の摘発件数は1046件(前年比20%増)、押収量は約3318kg(前年比2.2倍)と、史上初めて3トンを超えたとある(財務省ホームページ)。

快感を得るためから、現実から逃避するためへ

コロナ禍の期間、薬物の押収量は大幅に減じた。容易に出入国ができないため当然といえる。それでも、令和3年2月17日、最新の財務省報道では、「押収量は5年連続で1トンを超え、2トンに迫るMDMAおよび大麻樹脂等(大麻リキッドを含む)の押収量が増加」との見出しが付いた(令和3年2月17日、財務省報道発表資料)。

筆者の個人的な見解だが、大学の講義がオンラインばかりで登校できない、コロナ禍で仕事がなくなる、会社の人員整理で解雇される恐れがあるなどと考えたら、夜も寝られないという人が増えるのではないか。あるいは、夜の街のネオンが消え、自粛で孤独感に苛まれる人も増えているかもしれない。

そうすると、眠剤(睡眠薬)などの合法ドラッグをはじめ、大麻や覚醒剤などの薬物に手を出す人が増える可能性が否めない(実際にコロナ特需とも囁かれている)。それは、以前のように快感を得るためではなく、現実から逃避するための薬物使用である。

話は少しそれるが、若者の大麻ブームも懸念事項だ。今年6月25日に厚生労働省が発表した令和2年(2020年)の薬物情勢によると、大麻で検挙された人数は、前の年から690人増加し5260人と過去最多を更新している(大麻による検挙者のうち20代は2612人、10代は899人。10代には中学生が8人、高校生が159人)。

大麻はゲートウェイドラッグ(他のさらに強い副作用や依存性のある薬物の使用の入り口となる薬物)となりうる。人間は刺激に慣れる傾向がある。大麻の使用者が、さらなる刺激を求めて覚醒剤に手を出すという構図は、驚くには当たらないのである。