注射器も入手困難でシノギの対象に

もっとも、覚醒剤を輸入してから使用者の手に渡るまで、さまざまな中間ブローカーを経ている。そこで中抜きならぬかさ増しされている(希釈増量)。かさ増しに使用されるのは、点滴に用いるブドウ糖のアンプルなどだ。これをベニヤ板などに点々と垂らして一週間ほど放置しておく。すると、水分が木部に吸収され結晶化する。この結晶は水に溶けやすいという性質がある(かさ増しの際は、この結晶をさらに細かく砕いて用いる)。これがかさ増しに使う物質の正体だ。

他にかさ増しで加えるものとして、金魚鉢などに入れるカルキ抜き剤や、牛や馬の種付け用興奮剤(アンナカ)も用いられる。アンナカの正式名称は「安息香酸ナトリウムカフェイン」である。覚醒剤をセックスに使用する人には、この混ぜ物は違和感がないのではないだろうか。ただし、断っておくが、この興奮剤は家畜用である。

筆者が知る限り、1990年代から2000年代初頭、覚醒剤は大っぴらに流通していた。やりパケにポンプ(注射器)までセットで1万円くらいの価格で流通していたと記憶する。しかし、現在は、このポンプですらシノギの対象となる。めっきり入手しにくくなったからだ。例えば、昔は昆虫採集セットにはホルマリン注入用の注射器が付属していたが、これすら最近では見なくなった。

ポンプの末端価格は、1000円から1500円。もれなく「やりパケ」にサービスで付いてくるなんてことはなくなった。関西では、このポンプのみを扱う「道具屋」で家を建てた者がいるという。

日本では、不況下でも稼げる覚醒剤だが、その密輸と取り締まりはイタチごっこである。

ゴルフクラブや体内に隠して覚醒剤を密輸

2019年3月13日の時事通信ニュースによると、タイ警察が元暴力団員(以下、元暴)を、知人の日本人男性を運び屋にして覚醒剤を日本に密輸しようとした疑いで逮捕したと発表した。

逮捕された元暴は、日本に一時帰国するバンコク在住の男性にゴルフバッグの搬送を依頼。男性が調べたところ、ドライバーから白い粉が出てきたという。この粉末は覚醒剤で推定700グラム入っていたとのこと。警察は12日にバンコクの容疑者宅を捜索し、覚醒剤4.46グラム、大麻0.063グラムなどを押収。薬物の販売目的所持容疑で逮捕した。

先述したように、日本の覚醒剤市場は暴力団が管理している関係で高値で取引され、値崩れもしづらいことから、裏社会では、多少リスキーであるものの堅実なビジネスとして支持される。

この覚醒剤の密輸に関してよくある事例は、体内に隠して日本に持ち込むという方法である。この方法は、もし、体内で覚醒剤が漏れたら命とりになるから、とてもリスクが高い密輸方法といえる。しかし、同様のスタイルは、その筋の密売人には依然として支持されているようだ。