この考え方を支持する興味深い実験があります。実験に参加した大学生は、はじめにデザートの写真を観察するように言われます。この動作は、ホットシステムを活性化する効果を持ちます。その後、大学生は、明日15ドルもらうか、10日後に35ドルをもらうか、どちらかを選ぶよう求められます。すると、デザートの写真を見た学生は、写真を見ていない学生よりも、より衝動的な選択をする。
意思決定を衝動的にしてしまう
つまり、すぐにもらえる少額の報酬を選ぶことがわかりました。デザートの写真と金銭的報酬は、直接関係がありません。しかし、デザートの写真を見ることで1度ホットシステムが活性化されると、関係のない選択場面でも、意思決定を衝動的にしてしまうことがわかります。
また別の実験では、認知的に難しい課題を行わせることによってクールシステムの心的リソースを消費させると、その後、衝動的な購買が増えることが示されています。これらのことをあわせて考えると、衝動買いは、画像などの外的刺激によってホットシステムが活性化したり、難しい認知作業によってクールシステムの心的リソースが枯渇するなどして、ホットシステムがクールシステムを凌駕したときに、生じやすくなるのだと思われます。こうした状況では、ヒューリスティクスの影響力が高まり、本来商品とは直接関係ない情報によって、無意識のうちに意思決定が左右されてしまう可能性が高くなります。
福袋に関して言えば、買ってしまう原因のひとつとして、「稀少性の原理」が挙げられます。福袋は、数量や期間が限られているため稀少性が高く、「目の前で失われていくものを逃したくない」という心理から、価値があるように思えてくるという考え方です。ちなみに、稀少なものを他人に奪われることに強い抵抗感があるためか、「自己愛傾向が強い人ほど、稀少性に強く反応する」という報告もあります。
お正月というのも注目したいポイントです。人の行動の動機づけには、成功を求めて行動を起こす「促進焦点」と、失敗を避けるために行動を起こす「予防焦点」の2つがあります。人はポジティブな気分のときは促進焦点になりやすく、また、促進焦点の人はリスクを好む意思決定をすることが指摘されています。その結果、お正月のような慶事にはポジティブなムードに乗せられ、「要らないものもあるかもしれないが、うまくいけばいいものをたくさん手に入れられる」という福袋の購買行動に及ぶとも考えられます。