現役引退を撤回し、75歳でのカムバック

成功するビジネスは、消費者の不満・不安・不便などの「不」を解消するものです。

90年代にデパートに出店するや、売り上げナンバーワンを記録しました。大手に大差をつけた店舗がいくつもあります。当然、他社がどっと参入してきました。しかし、消費者は敏感です。ずっと添加物入りを販売してきた会社が、急に無添加を売り出す。その矛盾やブレを見逃しません。

当社のリブランディングも似たところがありました。ファンケルの存在価値を忘れ、見た目の格好よさに走った、とお客さまや株式市場は受け止めたのではないでしょうか。

「このままではお客さまと株主に迷惑をかける。社員とその家族が路頭に迷うようなことがあってはならない」

私は現役引退を撤回し、13年に会長執行役員に就任しました。75歳でのカムバックです。

「10倍のスピードでファンケルらしさを取り戻す」と宣言し、そのための施策を矢継ぎ早に打ち出しました。やるべきことはわかっていたのです。

すぐに現場社員の月給を一律2万円上げた

第1は、弱体化した研究開発を復活させること。研究開発をしていた優秀な社員が、どんどん辞めて他社に移っていました。社員のモチベーションを上げるため、第二研究所を建設し、基礎研究の強化や脳科学など最先端分野の研究にも取り組むとアドバルーンを揚げました。

次に「ファンケル大学」を設置し、理念教育の徹底など、社員の教育に力を入れました。採用したばかりの店舗の現場社員が1週間の教育だけで直営店の現場に配属されると聞き、私は驚愕しました。それほど人手不足になる原因は給料の安さです。すぐに現場社員の月給を一律2万円上げました。

その一方で、赤字の海外事業や子会社にメスを入れました。13年3月期はその特別損失で、創業以来初の最終赤字となりました。ほかにも改善策を次々と実施。スピード回復の足場を固めていきました。