ABCマートの快進撃を象徴する一例は、東京・新宿駅の東口前に、70年の歴史を誇るワシントン靴店が販売不振のために撤退したのと入れ替わって出店したことであった。現在、新宿には5店、発祥の地である上野では5店、本社のある渋谷では5店を展開しているが、そのほとんどが角地への出店である。
「角地は好きですね(笑)。立地のいい所に高い家賃で店を出す以上、粗利益の限界が決まっていますから、ズックからスリッパまで置いたら絶対に成り立ちません。要は回転率を高めること、つまり売れ筋と死に筋に対して早く対応することが大事です。単品ごとの在庫や回転率のデータは全部POSに入っていて、誰でも見られるようになっています。大切なのは、データを見切れる量の商品しか扱わない、人間の目が見られる限界を超えないということではないでしょうか」
店舗のPOS端末では、商品別の在庫量や店舗ごとの売り上げのほか、全国の販売員個々の売り上げも3分ごとに更新され、リアルタイムの数字が表示される。
客の求めるサイズや色がなく、同じ地域の別の店舗に在庫があるとわかれば、販売担当者は、たとえ店長であっても、繁華街の中を、人込みを縫いながら猛ダッシュで取りに行く。IT技術を駆使した最新の在庫管理手法を、こうした究極の人海戦術が下支えをすることで、商品回転率も押し上げているのである。
社員の平均年齢は26歳6カ月と、新興IT企業並みに若い。現在、14年2月期までに国内720店にする計画を立てており、繁華街の一等地だけでなく、ショッピングセンターへの出店も増え、1000店体制も視野に入れている。
「マニュアル」より「口コミ」が強いワケ
「社員の年齢構成が変わっても、社風は変えずにいきたいなと思うんです。うちは組織が異様にシンプルなので、役職インフレにはなっていないですね。各取締役が部長を兼任してそれぞれの部署を持っているだけで、あとは課長とかも置いてません。情報の流れも意思決定も早い。
私が入社したのは、まだうちが3、4店舗のころです。お客さんから注文をとって、出荷票を書いて倉庫に指示するんですが、倉庫の人手が足りないので自分で倉庫へ商品を取りに行って、自分でお客さんのところへ行ってというように、いろんなことをやっていました。