こうした外食大手と平田牧場の手法はどう違うのか。

「そもそも川上分野である養豚から始めて、川下のレストラン事業に進出したわれわれとはアプローチの仕方が異なります。当社では、飼料用米を食べた豚の排泄物を堆肥として有機農作物の栽培に活用するなど、循環型農業も行っています」(新田氏)

豚を健康に育てる安全管理にもこだわり、生活クラブの組合員は毎年、酒田市内の飼育農場を見学。ソーセージなど加工肉の工場も視察し、安全や衛生面も注視する。

提供=平田牧場
平田牧場が飼育する豚。飼料用米で育てた豚の脂身には甘みとうまみが多く含まれるという

健康でおいしく食べられる豚肉で貢献したい

このように高い理想を掲げて取り組むが、課題も残る。例えば消費マインドの冷え込みだ。

今回の取材は12月の平日に都内の店で行ったが、店内は満席で、空席を待つお客もいた。だが消費税増税後の10月は、各店舗で客足が伸び悩んだという。

主要販路である生活クラブ生協も、組合員数は伸びているが、かつてのように大量購入する組合員は減ったという声も聞く。ちなみに平田牧場の売上高は約151億円(2018年3月期)。10年前と比べ下降気味だが、店舗整理などを行い微減にとどめている。

それでも酒田市における同社の存在は大きく、期待も高い。江戸時代の料亭「相馬屋」を受け継ぐ「相馬樓」を運営し、酒田舞妓の育成を行うなど、地域の文化貢献も担う。以前、会長の嘉一氏を取材した際、次の言葉が印象的だった。

「地方では、大企業の工場を誘致しても経営不振になると撤退してしまい、地元に雇用も残りません。結局は地元企業が頑張るしかないのです」

その思いを継ぐ嘉七氏は、ブランド豚肉や循環型農業を通じて未来像を描く。

「人が生きるために最も大切な『食べること』に、おいしさと健康で貢献したい。食事は毎日の行為ですが、安心して食べられるのが当社の商品の特徴です」

江戸時代は北前船で栄えた港町・酒田。地方都市にある企業の心意気に期待したい。

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