起訴されない以上、踏み込めない
それがきっかけで二人は離婚。B子は「子供2」を連れてDと再々婚し、「子供3」を出産しますが、またもDが「子供2」を邪魔にして死に至らしめます。Dと別れたB子は次にEと4度目の結婚をしますが、EはB子の連れ子である「子供3」を疎んじて殺害してしまったのです。こうして数年のうちにB子は自分が産んだ3人の子供全てを、「次の男」に殺害されてしまいました。
私が思うに、責任があるのは実際に子供に手をかけた男たちだけではないでしょう。おそらく男たちの誰よりも、母親であるB子自身が子供の存在を邪魔に思い、「消えてほしい」と願っていた、あるいは子供を守る意志がなかったのだと思います。最近では、母親も保護責任者遺棄で刑事責任を問われることがあります。
私だけではなく、この裁判に関わった誰もが「一番悪いのは犯人ではなく、犯人を陰で作り出したB子だ」と思っていたはずです。ところが私たち裁判官には、検察官がB子を起訴していない以上、そこから先に踏み込むことができないのです。
悪いのは明らかにB子なのに、何もできないことがつくづく悔やまれる事件でした。
事件ニュースは「氷山の一角」
インターネット・新聞・テレビのいずれにも次から次へと「事件」のニュースが上がってきます。事件のない日は一日たりとてありません。「いつから日本はこんなに犯罪が多くなったんだ?」と思っている人もいることでしょう。
しかし実は表面に出てくる事件はほんの一部。「氷山の一角」が「事件」として人目についているだけで、その下には無数の闇に埋もれていく事件が存在しているのです。
あるとき、住所不定で車の中で寝起きをしながら生活している男性(仮にFさんとします)が「自分の戸籍を作ってほしい」と裁判所にやって来ました。必要があって戸籍があるはずの役所で何かの書類を取ろうとしたところ、「あなたの戸籍はありません。フィリピンで亡くなったことになっています」と言われたというのです。
「戸籍を作るにはまず家庭裁判所に行って裁判官に就籍許可決定をもらってください。それを持ってもう一度、ここ(市役所)に来てください」と、言われたということでした。そこでこちらで調べたところ、亡くなったことになっているFさんにはJという養子がいることになっていました。
戸籍を見る限りJは当時20代。しかし、Fさんは全く心当たりがなくJという人物の名前も聞いたことがないといいます。