推定無罪の原則、責任能力の有無…

他にも一般の人の感覚で受け入れ難いのが、殺人事件など重大事件の犯人が精神鑑定を受けた結果、犯行時に心神喪失の状態にあったと認められて無罪となることでしょう。責任能力がないことによる無罪です。

もっとも、検察官の方で起訴する前に精神鑑定をして精神疾患として不起訴にしてしまうことの方が多いので、本当の意味で責任能力のない人が起訴されることは少ないのです。

そのような人は措置入院として精神科病院に入院させますが、どちらかというと短期間で退院となります。犯行の原因が精神疾患に基づく場合は責任がなく、たとえ殺人を犯していたとしても無罪とせざるを得ないというのが刑事事件の原則なのです。

私自身はたとえ責任能力がなく罪に問うことはできなくても、精神科病院に入院させて一生出さないなどの措置が必要なのではないかと思っています。医療観察法という法律に基づいて強制入院させることになりますが、現状ではそのような人でも一生出さないというシステムはありません。

一般の人が安心して暮らせるように、何らかの法的手だてを考えるべきではないでしょうか。

「毒婦」に罪を問えない裁判の仕組み

親による子供への虐待が起こるようになったのは、つい最近のことのように錯覚しがちです。昔に比べて若い人たちの精神年齢が低くなったからだとか、今の親は人の親としての自覚が足りないからだなどと言われます。

しかし自分の子供に対してひどい仕打ちをする親は、昔から一定数いました。むしろ今よりも人権意識が低く問題として可視化されにくいため、数は多かったかもしれません。私も横浜地裁にいた時に歴代の夫に自分が産んだ3人の連れ子を次々と殺すように仕向けた(と思われる)、「毒婦」のような女性が関係した事件の裁判をしたことがあります。仮にこの女性をB子と呼びましょう。

数年のうちにB子と結婚した夫たち全員が、B子と前の夫との間に生まれた子供を殺すという事件が続発したのは、1970年代のことでした。

子連れシングルマザーのB子は前夫の「子供1」を連れてCと再婚し、やがてCとの間に「子供2」が生まれます。その後、Cは連れ子である「子供1」を疎ましく思い殺害(傷害致死)し、刑務所に入ることになります。