予算が余ると怒られる

今年の夏は、売り場でのデジタルサイネージ(電子看板)を活用したプロモーションが予定されていた。しかし、節電の影響で計画は白紙になった。浮いた予算は、どうするのだろうか。

「使う予算に関しては減らすつもりはありませんし、使い切らないと逆に怒られてしまいます。うちはそういう会社なんでね。もちろんその分、目標はきちんと達成しないといけませんが」

そんなことは、言わずもがなだろうという自負が、寺永の言葉の端々ににじんでいた。

不況になると、真っ先に宣伝広告費を削り、負の連鎖につながっている企業が多いなか、サントリーの元気のよさ、一人勝ちの秘密はこんなところにもあるのだろう。

トップの鼻息の荒さは、最前線の営業マンもきっちり感じているようだ。

群馬を拠点に北関東エリアで業績を伸ばしているショッピングセンター「ベイシア」は、プレモルを積極的に販売している。エブリデーロープライスを売りにする業態で、なぜプレミアムビールが売れるのだろう。

「父の日や、母の日といった『ハレの日』の企画でプレモルを前面に販促をすると、数字が伸びます。毎年120%くらいで伸びていますし、プレミアムビールを求められるお客様の数が年々増えています」

とは、ベイシア食品事業部のバイヤー谷口剛士だ。

「プレミアムビールは、他の商品と比べて価格競争がない“いい商品”です」

でも、なぜヱビスでなくてプレモルなのか?

「テレビCMをはじめとして、メディアを通じた消費者への宣伝活動が大きいですね。矢沢永吉さんが、コマーシャルで週末消費の販促をしてくれますので、こちらとしても相乗りしやすいことも大きいです」

テレビCMと現場の販促との連動はサントリーの得意とするところだ。


(左)ベイシア食品事業部バイヤー 谷口剛士氏、(右)サントリービア&スピリッツ関東支社・広域営業1課 六車彰宏氏。

ただ、それだけで数字が伸びるほど、甘い世界ではない。

ベイシアを担当するサントリービア&スピリッツ関東支店・広域営業一課の六車(むぐるま)彰宏は、今年の夏の秘密兵器を用意している。

「プレモルの12缶セットをベイシアさん専用什器とともに用意しました。新ジャンル24缶よりもほんの少し安い価格で出すことで、お盆の手みやげやプチギフトとして活用してもらえれば、と考えて提案しました。震災後のごたごたで、GWに里帰りができなかった人も多いはず。お盆には家族との絆を確かめようと帰省する人が多いと思うのです」

節電の影響で、かつてない暑さの夏がやってくる。ビール各社の戦略はどこまで消費者の心をつかむだろうか。そして、「美味いビール」で祝杯を挙げることができる営業マンは誰だろうか。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(小倉和徳、小原孝博=撮影)