発達障害児は勉強ができない子か

さて、筆者にも「自閉スペクトラム症」(ASD)と診断された息子がいる。3歳まで言葉が出ず、家族以外とはなかなか視線を合わさず、黙々と積み木を並べるひとり遊びが好きだ。4歳になる現在急速に話し始め、陽気なおふざけキャラに転身している。が、前述のニュースを見て親として息子の将来が漠然と心配になるときはある。ただASDといった発達障害は生まれついた脳機能の特徴で、病気のように治せるものではないが「障害」の2文字がひとり歩きしている感も否めない。

※写真はイメージです(Getty Images=写真)

たしかに独特のこだわりや感覚過敏などは周囲の理解や、環境整備が必要なことも多い。得意不得意なことの差も大きいので、得意分野を伸ばす傍ら、不得意部分では将来不自由しない程度に補う作業も必要だ。そのために児童精神科医や心理士、言語聴覚士、作業療法士らによる「療育」が存在しており、特に脳の発達が目覚ましい幼いころから遊びや運動を通じて働きかけをすることの重要性が謳われている。

だが、そんな幼少期の「療育」期を経た現在、ハタと我が家の目前に立ちはだかるのは、「入らせたい小学校がない」という現実の壁だった。

そもそも小学校入学はあらゆる子にとって大きな試練だ。ある日を境に突如45分間椅子に座り続け、興味のあるなしに関係なく先生の話を聞き続けなくてはならない試練。膨大な連絡事項に大量の宿題、さらにはお友達と仲良く過ごすことも求められる。まさに発達障害児にとっては苦手分野のオンパレード。こんな試練のなか、本人に過剰な負担を強いることなく、知的好奇心を伸ばせる学校はどこにあるのか。だが、通える公立学校の選択肢の少なさに、早くも心はぽっきり折れはじめている。

さて、発達障害児が公立小学校を希望する際、選択肢は主に4つある。

柘植雅義●筑波大学教授。博士(教育学)。「発達に凸凹がある子は、オールマイティに教科がこなせない半面、ある分野で特異な才能や能力を持つことが多い」。

1.知的遅れがなく、特性も強すぎなければ、普通学級に進学する。2.知的遅れはないが、情緒面や対人コミュニケーションに多少の問題がある場合は、普通学級に在籍しながら週に数時間「通級による指導」(通級指導教室、以下通級)で小集団・個別指導を受ける。3.知的遅れや情緒面で集団生活が難しい場合は、小学校に併設された「特別支援学級」(以下支援学級)に在籍する。4.知的遅れや身体的障害を伴う場合は、「特別支援学校」に通う。

支援教育は充実しているように思えるが、課題も多い。筑波大学の柘植雅義教授は3つ問題点を挙げる。

「まずは自治体で支援学級の設置にばらつきがあること。横浜市のように全公立小学校に支援学級がある地域もあれば、学区域校に支援学級がない場合もある。遠くの小学校まで親が送り迎えしなくてはならないなど、国が定めた『障害者差別解消法』に反する事態も発生しています」

▼公立小学校の支援の種類
現状では知的遅れが大きくない、通級と支援学級の間の“発達グレーゾーン”の子がこぼれ落ちてしまうことも……。

通級指導教室(通級)
普段は通常学級に在籍し授業を受けるが、週に数時間程度、個別や小集団でソーシャルスキルトレーニングなどの指導を受ける教室。
特別支援学級(支援学級)
一般校に設置された8人を上限とした個別支援学級。学校により、知的障害学級・言語障害学級・自閉症および情緒障害学級などがある。
特別支援学校
盲・ろう・知的障害など各種障害に応じて、学習面や生活面など総合的支援を行う学校。