しかし、大手電機メーカーすべてが苦しいわけではない。2001年度に4300億円の最終赤字に陥ったM社は、「破壊と創造」のスローガンの下で改革を進め、2年後には黒字に転換という「V字回復」を果たしている。同じ大手電機メーカーなのに、どうしてこれほど「どん底からの反発力」に差が出たのか。
実は、01年度のM社の自己資本比率は約40%。日本企業の自己資本比率は一般的に25~30%程度であり、図を見てもわかるように、総資産の調達源のうち40%が自己資本の状態というのは非常に頼もしい。約8兆円の総資産に対して、なんと3兆円以上もの自己資本があるわけだ。数千億円レベルの損失を出して早期退職・事業整理などを行っても、会社の屋台骨はびくともしない。
一方のS社はどうかというと、総資産約3兆円に対して自己資本は約3000億円。つまり、自己資本比率は10%しかない。総資産の90%が金融機関などからの負債でまかなわれている状態では返済が気になって、収益を生まない資産をカットする思い切ったリストラ策など夢物語なのである。
ROAは強い会社であるかどうかを見る指標でもあった。このROAを向上させるためにも、収益を生まない「悪い資産」を駆逐する必要がある。「悪貨は良貨を駆逐する」ではないが、資産の質がどんどん蝕まれるからだ。つまり、日頃から潤沢な自己資本を用意しておくべきなのだ。問題のS社の前女性会長は、極端に自己資本比率が低いことに恐れをなして、敵前逃亡したのかもしれない。