ある意味で、今の中国はアメリカよりもはるかに資本主義が徹底している。eコマースから流通、金融まで中国社会を広く支配しているアリババのような企業は、アメリカだったら独占禁止法でかなりの制約を受けているはずだ。中国には今のところ、そうした規制がなく、むしろ2つあった鉄道会社が合併して世界最大の鉄道会社が誕生しているし、独占的だった国営企業のチャイナモバイル(中国移動通信)がスマホ全盛の時代になって民間の新興企業に押されて劣勢に立たされている。

優勝劣敗という意味では中国の資本主義は行き着くところまで行っている。「共産党万歳」とさえ言っていれば、政府は経営に干渉してこないから、資本主義の権化のような手法、つまり「金を持っているヤツが強い」という論理がまかり通る。それがこの15年ぐらいで中国企業が世界的に強くなった最大の理由だ。

もう1つ、巨大人口のメリットについて言えば、安価な労働力がある。たとえば産業革命期のイギリスでは資本家と労働者が分かれて、労働者が酷使された。アメリカではアフリカなどから連れてこられた黒人が奴隷として労働力を提供した。そのような二重構造が中国社会にもあって、中国の場合は農村戸籍(農業戸籍)と都市戸籍(非農業戸籍)という2つの戸籍が存在したことが廉価な労働者の確保につながった。

都市戸籍はもともと都市部の国営企業の従業員など一部エリートのための戸籍で、教育や就職の自由などが認められているし、さまざまな社会保障が受けられる。しかし農村戸籍者にはそれらがなく、都市部では下級労働者として差別、区別されてきた。

貧しい農村から仕事を求めて都市にやってきた農村戸籍者は「農民工」と呼ばれ、その数は3億人とも言われる。彼らのような低賃金の労働力が製造業の繁栄をもたらし、都市の発展に寄与し、中国の経済成長を支えてきたのだ。

北京政府の号令一下で前進できる

同じ人口大国のインドに比べて中国の経済大国化が長足で進んだ大きな理由の1つは共産党一党独裁の政治体制にある。民主主義のインドでは改革しようにも、ついてこられない人々が5年に1度選挙で反対票を投じるからなかなか前に進まない。その点、中国は全体主義だから、北京政府の号令一下で前進できる。

さらに大国化を促した重要なポイントを挙げれば、一党独裁の政治体制でありながら、地方自治が日本よりはるかに進んでいるということだ。

地方自治と言っても、選挙で首長が選ばれるわけではない。地方政府のトップの人事権は北京の中央政府が握っている。中国の地方都市には行政トップの市長と、お目付役兼裏方役の党書記がいて、いずれも細かな人材データを持っている北京が任命する。