不正会計に手を染めざるをえなかった、当事者の苦悩や葛藤

「経済事件を追っていると、不正会計に手を染めざるをえなかった、当事者の苦悩や葛藤も見えてくるんですね。これまでの著作では、解説や論評が中心だったのですが、本書では、そうした人間ドラマを、浮き彫りにしたかったのです」

細野祐二『会計と犯罪――郵便不正から日産ゴーン事件まで』(岩波書店)

さまざまな人間ドラマのなかでも、とりわけ力を込めて描いたのが細野さん自身の体験である。世界有数の会計事務所グループ、KPMGの「トップ20」の会計士から一転、“犯罪者”の烙印を押され、公認会計士の資格も剥奪された。公判中には最愛の妻も白血病で失った。まさに、天国と地獄を味わった、波瀾万丈の人生といえる。

「とはいえ、そんな私でも、現在はライフワークを見つけて、充実した生活を送っています。そのことを知れば、不本意な仕事を強いられている人にとって、救いになるのではないでしょうか」

本書でも紹介されている、上場企業の財務諸表の危険度を分析する会計ソフト「フロードシューター」を細野さんは開発し目下、その普及に全力投球中だ。「コンピュータは、クライアントから巨額の監査報酬を受け取っている監査法人のように、企業に忖度したりしません。公開情報に基づき、会計原則に則って、会計の適否を判定します。現行の外部監査制度の改革につながる起爆剤になれば」と意気込んでいる。

細野祐二
会計評論家
1953年生まれ。82年公認会計士登録。78~2004年までKPMG日本およびロンドンで会計監査、コンサルタント業務に従事。
(撮影=加々美義人)
関連記事
"世界初の株式会社"がオランダで誕生した背景
消費増税"9カ月後"にやってくる恐ろしい真実
ソフトバンクが倒産したら日本はどうなるか
「売上5億で赤字367億」PayPayはペイするのか
元財務官僚「消費税引き上げは本当は必要ない」