アリババにあって、アマゾンにないもの
——日本では、まだアリババの真価が十分理解されていない。eコマース、クラウドコンピューティングなど事業分野が重複することもあり、「アマゾンの中国版」という見方も根強い。アリババとアマゾンの関係を、どうとらえるべきか。
【ミン・ゾン】アリババとアマゾンはともにeコマース分野の偉大なプレーヤーだ。アマゾンはアメリカの近代的で成熟した小売市場でイノベーションを起こした。一方、アリババは中国の脆弱な経済インフラ、未熟な小売市場のもとで最先端のテクノロジーを活用し、革新的モデルを構築した。そして顧客価値を生み出したことが、ここ20年の飛躍的成長につながった。アマゾンとはまったく異なるストーリーだ。
——アマゾンとアリババがそれぞれ独自の進化を遂げたプラットフォーム企業としてライバル関係にある場合、アリババの強みはどこにあるのか。
【ミン・ゾン】どちらも消費者に最高の価値を提供し、それぞれグローバルに事業を拡大することを目指している。最終目標は同じであり、そういう意味ではまちがいなくライバルだ。ただビジネスモデルはまったく異なる。
一つ明確になってきたのは、小売市場が未熟で、消費者の選択肢が限られた新興市場では、アリババのモデルのほうが競争力があるということだ。アリババ・モデルは多くの売り手や作り手の成長を可能にする。この「エコシステム・アプローチ」は、その国の経済成長の燃料となる。
アリババがNo.1企業になる日
一方、アマゾンのモデルが機能するには、優れたインフラが必要だ。アメリカや日本のような成熟市場では、すでにセブン-イレブンのような強力なプレーヤーが、全国規模ですばらしい品ぞろえを提供している。そうした市場でアリババが近い将来大きな存在感を発揮するのは難しいだろう。
ただ長期的には、そうした市場でもアリババが活躍する余地はあるかもしれない。アリババの拠点である中国には、世界最大の消費市場であると同時に世界最大の製造拠点である、というユニークな特徴がある。そのなかでアリババの構築したスマート・エコシステムは進化を続けている。いずれそこから新たな競争優位性が生まれ、アリババがアメリカや日本市場で活躍する機会も広がるかもしれない。
具体的な例を一つ挙げよう。ここ3年、中国ではオンラインとオフラインの小売市場の統合が大きなトレンドとなっている。まだブレークスルーには至っていないが、両者の統合は消費者にとって非常に大きな魅力があり、顧客価値は増大する。
このまま両者の統合が進めば、5年後には革新的なビジネスモデルが生まれているはずだ。それはスマート・エコシステムの産物であり、これまでなかったような競争優位性があるはずだ。この分野において、アリババは間違いなくナンバーワン企業になる。